第5話「言語化」
<宮本視点>
キーンコーンカーンコーン
午前の授業の終了のベルが鳴る。
「昨日は考えすぎてあんまり寝れなかったな」
窓の外を見ながらふとつぶやいていた。
「よぉ」
隣の席のクラスメイトが声をかけてくる。
「なんか元気ないな」
やはり周りからわかるみたいだ。
「そんなことはないんだけどな。
ちょっと昨日新しく来た監督から出た課題が難しくて」
「どんな課題が出たんだ?」
そう言われた宮本は昨日の内容を思い出しながら説明した。
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「いきなり言われてびっくりしていると思う。
少し説明をしたいと思うから聞いてくれ」
鳥海監督がそういうので俺は一言も聞き漏らさないようにしていた。
「言語化というのは、起きた事象や感覚などを言葉を通して
相手に説明することだとここでは認識してほしい。
サッカーでは、手を使うスポーツに比べて足を使うため、圧倒的にミスが起こる。
ミスをするななんてナンセンスなことは言わない。
トラップ一つなぜミスしたかを考え、次に生かすにはどうしたらよいかを考えていきたい。
また考えるだけではダメだ。具体的に何が悪かったのか。
ボールに対して足の接地面が悪いのか、最後までボールを見ていなかったからなのか。
相手のプレッシャーが強かったからかなど、原因はいくらでもある。
そういった思考のプロセスを常に意識して持ってほしい。
それがいわゆる状況判断の早さにつながると俺は考えている。
その第一ステップとして、自分のプレー面の長所と短所を言語化して説明してほしい。
俺自身も君たちの長所と短所を把握させてもらって答え合わせをしていきたいと思っている。
期限は1週間後。
各自面談を行うから、それまでにしっかり自分と向き合ってくれ。」
サブ組からとまどいの雰囲気が溢れている。
もちろん俺も例にもれずとまどっていた。
でもそんな俺らの中でもしっかり理解した奴がいた。
「監督、生意気な言い方ですけど言ってもいいですか。」
後ろからそんな声が聞こえた。
「いいぞ」
鳥海監督が答える。
「やっぱ、監督面白いですね。
そんなアプローチで教わったことないですよ。
早速自分と向き合ってみます」
声の主は、GKの高橋だ。
俺は本当にこいつは同い年かと疑う。
頼もしい奴だと改めてそう思った。
「よし!」
自然と声が出ていた。
「監督、期待に応えられるように頑張ってみます!」
思わず口に出した言葉に他のチームメイトも
「よろしくお願いします!」
精一杯の返事を監督に向けていた。
「期待しているぞ」
笑顔の鳥海監督から解散の声を聞き、その日の練習は終了した。
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「という感じで家に帰るまではテンション高かったんだけど、
いざ考えてみると難しいことに気づいてあまり寝れなかったのが原因ってやつかな」
頭をかきながらクラスメイトの問いに答えた。
「サッカーって自由な感じがするよな」
クラスメイトがさらに話しかけてきた。
「そういえば、おまえは野球部だったか」
今思い出したかのように俺は言う。
「野球はどんな感じ?」
興味本位で聞いてみた。
「野球は結構きっちり決まっているからな。
どこに打球が飛んだらどのポジションがどこに動くとか。
そういう意味ではなぜ動くのかは小さいころから考えてたかもな。
理由も説明できるし。
そういう意味では、おまえらの課題は俺たちが小さいころから取り組んでいたことなのかもな」
そう言うと友達に呼ばれたクラスメイトは教室から出て行ってしまった。
「確かにサッカーは動き回るスポーツだからなぜそこに動くかなんて考えたこともなかったし、
ましてや動いた理由なんて説明することも考えたことなかったな。」
あまりにも何も考えずにボールを蹴っていた事実に気づかされた。
「とは言ってもやるしかないからな。
まずは長所から考えてみるか。」
前向きな気持ちになって、昼食を食べに学食に向かう宮本だった。
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