第45話「支部予選決勝開始」
翌日には北川学園との試合がせまっていた。
時間がないため、鳥海は北川学園の分析をZOOMでマネージャーの長峰と行っていた。
「やっぱり強いな」
1回戦・準決勝と撮影した映像を確認した率直な感想だった。
「今年の北川学園は、キャプテンでボランチの川辺くんが中盤を支配して
副キャプテンの佐治くんが攻撃面で決定的な仕事をするのが特徴です。」
長峰さんが簡潔に特徴を教えてくれる。
「そうだよな。
ただ、なんかその特徴のチームって決めつけるにはひっかかるんだよな~」
なんとも言えない違和感がある。
「そうですか。
ひょっとしたら、他のメンバーが変なポジショニングを取っているからじゃないですか。」
「う~ん。そうなのかな。」
確かに川辺・佐治以外の選手は、はちゃめちゃなポジショニングを取っていた。
「でも要所で気が利くポジショニングを取れていたけどな」
たまたまなのか。
「それは二人からのコーチングじゃないですか。
今年の北川学園は、彼ら2人以外はすべて下級生みたいです。」
実は去年北川学園は、不祥事を起こしていた。それが原因で今年はシード落ちになっていた。
その影響で川辺・佐治の年代はほとんど残らなかった。
「まぁ、そうかもしれないな。」
わからないことは棚上げしておこう。
「じゃあ、どうやって攻略するか話し合おう」
ここから2時間、二人はお互いの分析をすりあわせていった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
<決勝当日>
南東京市営運動公園
人工芝のグラウンドで観客席もある施設。
今日は午前・午後で2試合のブロック決勝が行われる。
午前で行われるブロック決勝が、南東京高校対北川学園になる。
『観客の皆様、本日も実況を務めます木村です。
これから始まるのはHグループ決勝
南東京高校VS北川学園になります。』
『左から攻撃するのは白の上下のユニフォーム南東京高校。
右から攻撃するのが黒の上下のユニフォーム北川学園です。
まもなくキックオフです。』
南東京高校ベンチ。
「時間は短かったが、北川学園の特徴は伝えた。
あとはこちらのサッカーを実践するだけだ。」
長々と伝えることはない。
あとは選手たちがグラウンドで表現してくれるだけだ。
静かに淡々と選手たちはグラウンドに移動した。
北川学園ベンチ。
「今日も俺らが勝つ。
気を付けたいのは、トップ下の選手だがそれも俺が抑えるから問題はない。」
キャプテンの川辺が監督に代わって声掛けをする。
「さぁ、いつもどおり支部予選を突破するぞ」
北川学園のボルテージがあがり、グラウンドへ向かって行った。
『両チームがグラウンドに出てきました。
それでは、北川学園のキックオフでスタートしました。』
『両チームとも準決勝からの選手変更もフォーメーションの変更もありません。』
北川学園からのキックオフ。
まずは、川辺へボールが渡る。
「それじゃあ、行きますか」
185cmの屈強な体を持つ川辺から前線へロングパス。
あっという間に南東京高校のペナルティーエリアまでボールが入ってくる。
「俺に任せろ」
南東京高校の屈強な男と言えばもちろんCBの森山。
北川学園のFW2人を吹っ飛ばしボールをクリア。
「なかなかやるな」
森山のクリアボールをセンターサークル付近で回収した川辺。
「次はこれならどうだ。」
今度は打って変わって優しいロングボールを左サイドにいた佐治へ送る。
ボールを受け取った佐治はドリブルを開始。
右SBの坂崎をなんなくかわし、ペナルティーエリアへ侵入。
ボールをクリアした森山がすぐに対応に向かう。
「おまえも俺が止めてやる。」
森山が佐治に立ちふさがる。
対峙した佐治は表情一つ変えず、左足でクロスあげるようとする。
それに対応して右足を出す森山。
「威勢がいいのも善し悪しだな。」
右足を出した森山の動きを確認してシュートに切り替える佐治。
上げた右足の下を狙って左足を振りぬく。
GK高橋にとって森山がブラインドになり反応が遅れる。
その分横っ飛びした高橋がボールに触れない。
『あ~っと、ボールがポストにはじかれる~。
開始早々北川学園ビックチャンスを逃しました』
「入ったと思ったんだけどな」
少し悔しそうな表情を浮かべたが、
すぐ気持ちを切り替えて佐治は自分のポジションへ戻っていった。
「やっぱりやっかいだな。」
あの二人の質は改めて高い。
南東京高校DF陣が集まって再度守備を確認。
ここから10分。
失点することはなかったが佐治のクオリティに手を焼く南東京高校。
当初のプラン通りにチームのバランスが崩れることを覚悟で守備プランを変更。
DMFの宮本が佐治へマンマークディフェンスを仕掛ける。
「みんな俺にマンマークつけるけど、それぐらいじゃ止まらないよ。」
そんなディフェンスなど慣れっこと気にもしない佐治。
また川辺からボールが佐治に入る。
宮本のマークを気にせずドリブルを開始する佐治。
ただ、今までのディフェンダーとは宮本はレベルが違かった。
適切な間合いに入るのが早い宮本。
どうしても足からボールが離れるタイミングを見逃さない。
ボールに足先をちょんと当ててボールを奪取。
やっとボールを奪取した宮本はもちろん攻撃の要の水樹にパスを送る。
ボールを受け取った水樹が前を向こうとすると
後ろからダンプカーがぶつかったような衝撃が水樹を襲う。
「おまえをこの試合自由にするつもりはない。」
あきらかにファールではあるが、倒れた水樹を見下ろすように川辺が言い放った。
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