第43話「インハイ予選初戦」
時がたつのは早いものだ。
レギュラーを発表し、コンセプトの浸透やHグループでの対策。
あっという間に1週間が立った。
今日は、初戦。
大会日程は1回戦が午前、準決勝が午後。
翌日が決勝戦。
シードである南東京高校は準決勝が初戦になる。
高校野球でもそうだが、1回勝っている相手の勢いは侮れない。
強豪校があっさり負ける場合は初戦が多い。
ただ、この予選で言えば相手は連戦。
万全なこちらが圧倒的優位なのは変わらない。
長峰さんには1回戦の試合を偵察してもらっていた。
都立校同士での戦いで一進一退の良い試合だったみたいだ。
俺自身はウォーミングアップを兼ねた軽い準備を選手に行い、
一緒に試合会場に到着したところだ。
「鳥海監督」
長峰さんがこちらを発見し駆け足で近づいてきた。
「おつかれさん」
そう声かけると
「ありがとうございます。
向こうに待機場所を確保しているのでいきましょう」
促されるようにその場所へ移動した。
「1回戦勝ったのはどっち?」
試合開始まであと2時間。
長峰さんとミーティングを行う。
「勝ったのは、南東京工業です。
技術はありませんが、気持ちで戦う良いチームです。」
「そっか。波に乗ると厄介だな。」
「1回戦も先制された後に逆転勝ちしたんですが、
同点後の勢いは相当です。」
「わかった。まぁ、圧倒的な勝利を目指すだけだ。」
うちははっきり言って強いぞ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
南東京工業
南東京市にある工業高校。
一般的な都立高校の印象でサッカー部もそこまで強くはない。
サッカー部のスタイルは、とにかく頑張ってボールを追いかける。
1対1で負けない。
気持ちで戦うチームの典型だ。
「次はシードの南東京高校か。」
南東京工業は1試合目を終えて休息を取っていた。
疲労感は隠せない。
だがまさか1回戦を勝てると思っていなかった為、モチベーションは高い。
「実際南東京高校は強いのかな?」
一人のメンバーが皆に問いかけていた。
「う~ん。
あそこは監督が代わってから情報がないので
やってみないとわからないんじゃない。」
女子マネージャーが答える。
南東京工業の監督は引率のみで経験もない顧問の先生。
生徒だけでここまでチームを作り上げている。
「とにかく走って頑張ろう!!」
みんなで気持ちを高めあう。
そんな南東京工業はこれから衝撃を受けることになるとは
露にも思っていなかった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
キックオフ直前。
両校メンバーが出そろう。
シードされているとはいえ、南東京高校も注目された存在ではない。
この日最後の試合の衝撃を目にするのは、両校関係者と
決勝で戦うことが決まった北川学園だけである。
『南東京高校VS南東京工業、本日最後の試合がまもなく開始されます。
本日も実況木村がお届けします』
『前評判ではもちろんシード校の南東京高校が優位ですが、
1回勝っている南東京工業も侮れません』
毎度おなじみ木村の実況が開始される。
「鳥海監督」
マネージャーの長峰さんが声をかけてくる。
今大会からベンチ入りしている。
「どうかした?」
「やっぱり緊張しますね。」
珍しく緊張した顔をしている。
それだけ真剣な証拠だ。
「まぁ、俺は慣れたというかやってきたことに自信があるから、
うちは負けないよ」
負けるわけがない。
「そうですね」
少し緊張がとれたみたいだ。
「じゃあ、あとは選手に任せよう」
試合が開始されたみたいだ。
視線をグラウンドに向けた。
『南東京工業からのキックオフです。
ボールを後ろに下げ相手陣地に向かってボールを蹴ります』
キックオフから蹴られたボールは、CBの森山がなんなくクリア。
このボールが水樹へと送られると、衝撃の幕開けだった。
「森山ナイス」
ボールをセンターサークル付近で受ける水樹。
相手DF陣がディフェンスラインを押し上げている為。
水樹の前にはCBが2人しかいない。
水樹がボールをキープした瞬間、
各々が動き出す。
CFの加藤は右サイドに流れることにより左MFの佐々木のスペースを空ける。
右MFの佐藤は中にはいり、パスコースを作る。
これだけの動きで南東京工業のDFは混乱。
本当に抑えなければいけない選手の動きをないがしろにしてしまう。
ボール持った水樹は各選手にアイコンタクトを送る。
この動きで相手DFはパスを予測。
気づかないうちに全体的に広がってしまう。
これを逃す水樹ではない。
ドリブルを開始した水樹は、目の前にいるCB2人へと突き進む。
「俺が行くからカバー頼む」
南東京工業CBの1人がそう叫ぶと水樹に向かってチャレンジ。
そんな頑張りをあざ笑うかのように簡単に突破。
カバーで待機するもう一人もあっという間に抜き去ると
GKと1対1。
なんなくゴールを決めて南東京高校が先制点をあげる。
これを皮切りにゴールラッシュが始まった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
<北川学園視点>
決勝相手はどちらか。
先ほど5対0の完ぺきなスコアで勝利した北川学園は、
レギュラー組を含む全員でこの試合を偵察していた。
「もう十分だな。
見る必要はないだろう。」
南東京高校が5点をあげた前半の終了を告げるホイッスルを聞くと
一人の人物が全員に声をかける。
その男は北川学園キャプテンであり絶対的支柱の川辺だ。
「監督、これ以上見ても無駄です。
後半はあのトップ下をはじめ、何名かは交代するはずです。」
事実、この後水樹は後半出場することはなかった。
「それは構わないが、結構強いぞ南東京高校は」
監督とみられる男性が川辺にそう伝える。
「大丈夫ですよ。自分が何もさせません。」
川辺はそう言うと帰宅の準備を始めていなくなる。
「監督も大変ですね。」
副キャプテンであり川辺の幼馴染である佐治がフォローにはいる。
「別に問題はないさ。
川辺と佐治がいて支部予選を突破できないなんて考えられないからな。
大方南東京工業が弱いんだろ。
じゃあ、解散しよう」
監督の声を聞くと各々支度をしていく北川学園。
南東京高校に負けるとは微塵も思っていなかった。
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