第36話「レギュラー組VSサブ組⑥」
後半開始
レギュラー組は前半とやり方は変わっていないが、あきらかに動きが違う。
サブ組のプレスがはまっているが、個人のスキルで次々とはがしていく。
はたから見るとレギュラー組のエンジンがかかっているように見えている。
チャンスをどんどん作っていくレギュラー組。
防戦一方のサブ組。
時間は後半開始から10分が立とうとしていた。
『後半開始からレギュラー組の動きがいいですね。
ひょっとしたらこのまま追いつくかもしれません』
『そうですね。次の1点がどちらに入るかで流れが大きく変わると思います。』
解説の鳥海にはどちらに入るかはわかっているようだった。
「鳥海監督」
解説をしていると後ろから声がかかった。
『すいません、ちょっと席を離れます』
実況の木村に続きは任せて席を離れる。
「来てくれたのか」
この試合に見学でいいからと声をかけていた南東京高校最後の選手が目の前にいる。
学校には来てくれているので授業ではもちろん会ってはいたのだが。
「どうだ?実際に今の南東京高校サッカーを見てみて」
まず感想が気になった。俺にとってそれぐらいの選手だから。
「そうですね。
本当に前監督のサッカーと鳥海監督の現サッカーが戦っている感じです。」
「おまえはどっちのサッカーで戦いたいと思う?水樹」
もちろん話をしていたのは、南東京高校のベストプレーヤー兼幽霊部員の水樹裕馬だった。
「ぼくは前監督の現役時代からのファンで引退後監督をやると聞いて、
絶対前監督のもとでサッカーをやるんだとこの学校に入学しました。」
「正直前監督がいなくなると聞いて目の前が真っ暗になりました。
そんな時にこいつが今の監督のサッカーは面白いって言ってくれたんです。」
そう言う水樹の隣には制服を着た女の子がいた。
「裕馬の幼馴染の長峰仁美と言います。」
きれいな黒髪ロングの美人さんだった。
「まぁ、知ってるよ。授業で君も見かけるからね。」
事実うちの生徒だからな。
「話を戻しますけど、やりたいサッカーは今サブ組がやっているサッカーです。
レギュラー組でやっていた時にいてほしい場所やタイミング、
それらすべてサブ組は実践しています。」
「それに比べてやっぱりレギュラー組は自分が動かさないと
やっぱり良いサッカーが出来ないと感じています。
あいつらは決して認めないと思いますが」
「そうか」
喜びを隠せない。水樹がいるだけでこれから先どれだけラクになるか。
前監督やレギュラー組はこの逸材の無駄遣いをよく今までやっていたもんだ。
「鳥海監督」
今度は長峰さんが声をかけていた。
「なんですか?」
丁寧な対応を心がける。
「私は、裕馬にはもともと中学までいたJユースに戻ってもらいたいと思っていました。
昇格を熱望されていましたし、今でも戻ってこいと声がかかっています。」
「でも関東大瑞穂高校との練習試合を見て、考えは変わりました。
この監督のもとなら裕馬は成長すると。」
この前の試合を見てくれていたらしい。
「こいつのお父さん、サッカー界では有名な指導者なんですよ。
だから小さいころから分析官をやらされていたらしく、かなり詳しいんです。」
水樹が長峰さんの情報を教えてくれる。
「そういえば長峰って名前でサッカーの指導者と言えば、
青森にある全国常連校の監督も確かそんな名前だったような・・・」
俺は他に興味がないためうろ覚えな知識だが
「そうです。青森ではもう20年も負けていない高校の監督の娘ですよ。」
水樹が答えを言ってくれる。
やっぱり当たっていたらしい。
「父は関係ないです!」
いきなり大声をだす長峰さんに俺も水樹もびっくりする。
「すまん、すまん」
とりあえず謝っておく。
「続けますけど」
不服そうな顔でこちらを見てくる。
「関東大瑞穂高校戦での事前準備をしっかりしていたことがわかる偽サイドバック。
それにビルドアップのやり方。相手キーマンへのマンマークなど、
的確な修正にびっくりしました。」
「だから鳥海監督のもとなら裕馬はもちろん私も関わっていきたいと感じました。」
今なんて・・・
「私も関わっていきたい???」
聞き間違いか。
「はい、私もマネージャーとして入部したいです。」
えっ・・・
「確かにうちの部にはマネージャーはいないし、分析も俺がやってはいるが」
水樹を見る。
「自分は賛成です。
こいつの分析はすごいですよ。」
自分のことのように自信満々に言ってくる。
「じゃあ、お願いしたいところだけど一つテストしてもいいかな?」
マネージャーの部分はありがたいから、入部してもらうことはこの時点で確定だが、
分析官を任せるかは、確かめたかった。
「どうぞ」
自信満々な長峰さん。
「次の1点はどっちに入ると思う?
よければある程度の理由もあると嬉しいな」
普通なら今押しているレギュラー組だと思うはず。
「それはもちろんサブ組です!」
即答だった。
「なんで?」
「レギュラー組がこの試合で点を取ることはないです。
裕馬が入るのなら話は別ですが。」
「要所要所でサブ組のDFはポジショニングを間違えないですし、
レギュラー組はアドリブで攻撃しています。入る要素がありません。
それにレギュラー組のDFは致命的な欠点を抱えています。」
もう100点の解答だった。それでも話を続ける長峰さん。
「キャプテンの森山くんの所から失点すると思います。
もうそろそろです。」
そう言い切る長峰さんがグラウンドに目を向けると、
サブ組が3点目を決めていた。
後半18分、試合を決定づけるゴール。
森山の所からレギュラー組は失点していた。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!




