第34話「レギュラー組VSサブ組④」
『前半10分、サブ組山下がバックパスをかっさらって2点目ゲット~』
山下はゴールを決めると、鳥海監督の方を見ながら何日も前から言われていたことを思い出す。
「逆サイドのSMFはセンターラインぐらいまで寄って、
ボランチのケアとバックパスのパスカットに備えてくれ。」
最初、斎藤とともにその話を聞いた時はびっくりした。
「でも監督、それだと逆サイドのマークが完全に外れますよ」
普段寡黙な斎藤が発言する。
「もちろんわかっているが、パスの出しどころにはしっかりとプレスがかかっている。
それに逆サイドに振るビルドアップの形がレギュラー組にあるとは思えない。」
このプレスから逃げるには事前に準備が必要だ。
「それってリバプールがやっている同サイドでの圧縮守備ってことですか?」
サッカーIQが高いと認識された佐藤が具体例を出してくれた。
「よく知っているな。そしたら、今から映像で説明したいと思う。」
サブ組は何度も何度も映像を見ながら同サイド圧縮守備を練習していった。
「山下、上手くいったな」
斎藤が声をかけてきた。
「正直半信半疑だったよ。
やっぱり自分の後ろを空けるのは怖かったさ。」
実は、その恐怖感から寄せるタイミングは正直遅かった。
それでもおつりがでるぐらいレギュラー組が何もできなかったのだが。
「いざ寄ってみると、確かに逆サイドにパスを出すのは難しいだろうなって感じたし、
たぶんバックパスしかないとも思えた。
あとは、パスが出るタイミングをうかがってただけで、出た瞬間にもうもらったって感じ」
山下は思った通りに上手くいって興奮しているようだ。
「そっか、今度そっちでプレスがかかったら、怖がらずにやってみるわ。」
攻撃での派手さはないが、堅実に自分の仕事を行う山下と斎藤は、
守備からの攻撃で輝きはじめた。
2点目を奪われたレギュラー組から余裕はなくなっていた。
なんとなくのビルドアップではなく、
玉木を中心とした結果を出していた攻撃の組み立てからの失点。
さすがに動揺している。
「森山さん」
呆然としているキャプテンに苛立ちを隠せない声がかかる。
「何やってるんですか。
後ろでそこまでボールを取られてたら勝てるもんも勝てないですよ。」
声の主はFWの佐々木だ。
唯一の下級生。
基本先輩に何かを言うタイプではない。
しかし、ここまで不甲斐ない先輩に言わずにはいられなかった。
「すまない」
森山は謝るしかなかった。
「次からはシンプルに前も使ってくださいね。
連動性でやられているだけで、個々の実力なら負けてないんですから。」
そう言って佐々木は前線に戻っていった。
本当に個々では勝てているのか。
森山・玉木をはじめ後ろの人間は対峙したサブ組の実力の向上を肌で感じていた。
『鳥海監督、前半10分までに2点差がつきましたね』
『そうですね。サブ組としては狙った通りの試合展開。
レギュラー組はいかに修正できるかですね。』
この失点を機にレギュラー組のサッカーが変わった。
無理につながず、前線に簡単にボールを蹴るようになった。
FWの横山の高さを生かし、佐々木が裏に走り出す。
少しずつシュートが打てるようになっていった。
「さすが佐々木だな。
もう少しで点を取ってくれそうだ。」
玉木が森山に話しかける。
森山はそう感じていなかった。
何かはわからないが上手くいってるように見えているだけだった。
「だといいんだけどな」
そう返すしかなかった。
「柏木」
佐々木のマークをしている鈴木が現状を伝えてきた。
「監督が言った通りだ。
欠点もそのままだし、このまま問題なくマークできる。」
「そうか。
横山の高さはどうしようもないけど、結局レギュラー組の得点源は佐々木だからな。」
柏木と鈴木にはレギュラー組の攻撃に恐怖感はなかった。
前半残り数分。
佐々木は焦っていた。
ボールは確かに来る。
でもボールを受け取った場所からのシュートコースはほとんどない。
なぜなら、ゴールの真正面でボールが受けられない。
受けられるのは、外に流れた時だけだった。
「くそ~」
スペースがないわけではない。
走り出すタイミングが悪いわけでもない。
でもいいところでボールを受けるとそこには必ずCB鈴木にぴったりマークされている。
「こんなに鈴木は足が速かったか?」
この数日でスピードなんてあがるのか。
だけど、それしか考えられない。
前半ラストワンプレー。
玉木から横山へボールが渡る。
マークについた柏木の後ろのスペースが空く。
佐々木はもちろんそのスペースへ自慢の快足で走り込む。
「横山パスくれ」
横山は上手くポストプレーを行い、柏木の裏にパスを出す。
横山からの抜群なパス。
ゴール正面の近い位置でボールを止める。
鈴木のマークも自慢の快足で外したはずだ。
シュートコースは頭の中に入っている。
左上のスミにインフロントでボールを蹴る。
ボールへのインパクトは完ぺきだった。
「よし、これで反撃の1点だ。」
佐々木は追撃の1点になると微塵も疑っていなかった。
しかし、そのボールはゴールどころかGK高橋までも届かなかった。
「あぶねぇ~」
シュートコースに左足を出した鈴木に当たり、
ボールはサイドラインへと転がっていった。
ここで前半終了のホイッスル。
レギュラー組頼みの綱の佐々木から得点が生まれることはなかった。
鈴木や柏木の成長だけではない。
佐々木の欠点によってサブ組のゴールを割られることはなかった。
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