第3話「サッカーとは何か」
練習2日目。
今日から本格的な指導初日。
とはいっても、そんなに広くないグラウンドをレギュラー・サブと分けて行うため、
決していい環境ではないな。
そんなことを考えている俺の前には、不安そうにこちらを見ているサブ組の部員が集合していた。
「監督、全員集合しました」
サブ組を代表してGKの高橋が声をかけてきた。
「それじゃあ、練習を始めようか。
おっとその前にミーティングからいいか」
不安な顔がよりいっそう不安になっているな。
「それじゃあ、一つ質問していいか」
「サッカーってなんだ?」
なんだこいつはみたいな顔を全員しているな。
「なんでもいいぞ。思ったことを言ってみろ」
「ボールを蹴って行うスポーツです」
一人の生徒がそう答える。
「他には?」
「世界で一番競技人口が多いスポーツです。」
また別の生徒が答える。
それを皮切りに続々と色々な答えが出てきた。
「よし、そこまででいいぞ」
生徒が静かになっていく。
多分これから正解教えてくれことを期待しているようだ。
「実はこの質問に正解はない。もちろん手を使って行うスポーツと答えるならば、
間違いではあるけどな。」
「俺が本当に伝えたかったことは、自分で考えることの必要性だ。
サッカーとは何か、色々な意見があったと思う。でも俺から質問されるまで
しっかりと考えたことはあるか?」
「このチームの目標や方向性についてある程度は、監督である俺が考え導く必要があるが、
その先やプロセスに関して、技術のあるなしではなく、サッカー部に所属している全員が日々考える必要がある。」
「サッカーが上手い人に教わりたいと思うことは当然だ。そこを否定はしない。
ただ、サッカーをすることが上手い人とサッカーを上手くさせることが出来る人は当たり前だが違う。」
「今後その違いについて君たちを通して証明していきたいと考えている。
厳しいことを言うが、君たちはこれからも今のままのやり方ではレギュラーは難しい」
「だから一緒に新しい南東京高校サッカー部を作っていこう」
生徒一人ひとりの顔を見渡すと、やる気に満ち溢れている。
これなら問題ないな。
「宮本」
ある生徒を呼ぶ。
「はい」
元気よく返事をする。
こちらも坊主頭だが、イメージはむしろ野球部だな。
「おまえが今日からサブ組のキャプテンだ。
それとおまえを中心にチームを作る。」
「えっ・・・」
宮本の顔が青ざめていく。
それに周りの生徒もざわついている。
そんなに変な提案なのか不安がよぎってきたそんな時、
「いいじゃん。それでいこうぜ」
後ろからそんな声が聞こえた。
全員が後ろを振り向くと、そこには高橋がいた。
「俺は宮本がどれだけ凄いのか知っているからな。
それにお前がサブ組なのが不思議だと前から思っていた。
この抜擢だけでも俺は、監督を信用できる。」
「監督、是非いいチームにしてください。」
俺は心の中で高橋に感謝していた。
これから論理的に宮本の良さをトレーニングメニューを通して理解させていくつもりだったが、レギュラーであり、絶対的守護神の高橋からの一言は正直大きい。
「任せろ」
必ずいいチームにしてやる。
「宮本、任せていいか」
俺は宮本の覚悟を問う。
「はい!」
宮本が真剣なまなざしでこちらを見て、返事をする
「じゃあ、宮本。就任の挨拶を頼む」
「わかりました。」
サブ組のメンバーを見渡して、ゆっくりと口を開く。
「今回、急ではあるけどキャプテンに就任した宮本です。
自分がキャプテンに向いているかは正直わかりません。
でも監督がどこを評価してくれたのかを一生懸命考えたいと思っています。
また、自分の中でキャプテンというものを考えて行動に移していきたいです。
宜しくお願いします!」
サブ組みんなから温かい拍手わきおこる。
「じゃあ、これから練習を始める」
なんてことない呼びかけに対して、
「はい!!!!」
とんでもない熱量の返事が返ってきた。
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