第29話「準備完了 サイド:サブ組」
試合翌日の日曜日は軽い練習、月曜日は完全オフ。
選手たちはリフレッシュした状態で紅白戦まで残り4日を迎える。
「集合」
いつも通りミーティングを始める為に声をかける。
「まずは、関東大瑞穂との練習試合お疲れ様。
今日からの練習でその時に見えた課題を改善できるようなメニューと
レギュラー組への対策を行う。」
「課題に関してだが、やはり個々のスキルが足りないと自分たちでも感じたと思う。
ボールを止める・蹴るに始まり、どのスペースに動く・止まるまですぐには改善されない部分だが、
一秒でも惜しんで努力してくれ。」
「はい!!」
サブ組全員やはり感じていたのであろう。顔つきが違う。
「ここからがミーティングの本番だ。
今週の土曜日に行うレギュラー組との紅白戦。
負けられない理由があるのは、監督の俺だけだが
やるからにはレギュラー組に勝ちたいと思ってほしい。」
「まぁ、俺に監督をやめて欲しいと思っているなら手を抜いてくれてかまわないが」
事実その可能性もある。
すると後方から声が聞こえる。
「そんな奴このサブ組にはいないですよ。」
GK高橋だ。
「関東大瑞穂との試合で足りない部分ももちろん感じていますが、
なにより監督のもとでサッカーをやることの楽しさを味わってしまいましたから。
なぁ、宮本」
「そうっすよ。今じゃ森山とかにもったいないってアドバイスしたいぐらいですから。
勝って証明しましょう。」
どうやら心配は杞憂なようだ。
「そう言ってもらえると助かる。
じゃあ、気を取り直して話を続けさせてもらう。」
ミーティングを続ける。
「南東京高校レギュラー組の強みをサブ組はどう認識している?
佐藤、どうだ」
「強みですか、外から見ているとやはりセンターラインがしっかりしていると思います。
GK高橋、CB森山、DMF玉木、OMF水樹、CF佐々木。この5人のレベルはかなり高いと感じています。
ただ、好き勝手やっている印象もあったので、まとまりはなかったのかもしれないです。」
「佐藤ありがとう。」
やはりしっかり見ているな。
「佐藤が言う通り、センターラインの5人の能力はかなり高い。
でもだからと言ってスペシャルなわけでもない。」
ただ一人を除いてはだが。
「サブ組のみんなにまず意識してもらいたいのは、レギュラー組への劣等感だ。
なければもちろん問題ないし、あるのであれば今日から同格だと認識してほしい。」
「レギュラー組の戦い方は俺の方で分析している。弱点も把握済みだ。
残り4日。しっかりトレーニングすれば問題なく勝てる。
いいな」
「はい!!」
「では、練習を始める」
選手たちが各々散らばっていく。
「監督、ちょっといいですか。」
高橋が声をかけてくる。
「どうした?」
「さっきの佐藤の評価と監督の評価の中で、1点疑問があるのですが。」
ひょっとしたらレギュラー組だったからこそ気づいたのかもしれない。
「言ってみろ。」
「OMFの水樹は、決してキーマンではなかったですよ。
確かに真ん中にはいましたが、それだけです。
今では部活どころか学校にもそんなに来ていないですよ。」
実は、南東京高校サッカー部唯一の幽霊部員になっている水樹。
「それって森山をはじめみんなそんな評価か?」
「だと思います。もちろん上手いは上手いですが、パスミスも多かったし。
前監督をすごく慕っていてなんとかレギュラーに滑り込んだって印象です。」
なるほど。とことこ見る目がなかったんだな。
「俺の中では評価はしているんだけど、
学校に来ていない以上、週末の試合にも来ないだろうな。」
そこは学校の先生としても心配ではある。
「来てもそんな変わりませんよ。
すいません。くだらない質問でしたね。練習に戻ります。」
高橋はそう言うと練習に戻っていった。
「レギュラー組どころか多分前監督もそう認識していたと思うと、
佐藤はよっぽど見る目があるのかもしれないな。」
本当にサッカーIQが高いのかもしれない。
なぜかというと、
俺が考えるレギュラー組の弱点は3つ。
その一つを無意識でも感じていたからだ。
そう、俺が考えるレギュラー組の第一の弱点は、OMFに水樹がいないことだった。
南東京高校唯一のスペシャルな選手、水樹裕馬。俺はそう思っている。
学校にも部活にも来ない幽霊部員がである。
「一つ目の弱点は監督としても先生としても不本意だが
残り4日間、レギュラー組が抱えるあと2つの弱点を突く練習をするだけだ。」
ここからのサブ組の練習は個人技のスキルアップはもちろん、
レギュラー組の弱点が浮き彫りになるようなシチュエーションを作り出す練習に注力していった。
あっという間に4日間が過ぎ、サブ組の準備は整った。
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