第26話「決着 サイド:関東大瑞穂高校」
<名も無きCF視点>
「マジで決めやがった」
そう感じたのには訳がある。
まだ同点にもなっていない後半20分ぐらい。
俺は不思議に思ったことを志波に聞いていた。
「なぁ、凌馬。
なんで右足で蹴れば上手くいきそうなところを左足しか使わないんだ?」
志波は両足で蹴れるところも魅力だったはずだが。
「う~ん、同点まででよければそれでもいいんですけどね。
右足が蹴れないと思ってもらってないと逆転までが難しいって感じてます。」
「そうか?相手がおまえを止められるとは思えないけどな」
事実、この時はマンマークされていなかった為、やりたい放題だった。
「DFはそうですけどね~問題はその後ろですよね。
あの人はレべチですよ。」
「そんなにか」
まぁ確かに自分がシュートして入るイメージはない。
そんな俺に何かが見えてるような顔をした志波は
「必ず右足でシュートを打つ時が来るはずなんで、
そのシュートが逆転の場面だと思ってます。
なんとなくですけどね。」
そう言うとポジションに戻っていった。
「あいつが言った通りになっちまったな。」
本当預言者みたいだ。
ゴールを決めて喜ぶ志波を追いかけながら、そう感じていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「逆転ゴー―――――ル!!!!!
AT、背番号10番志波凌馬選手の右足からのシュートが
見事南東京高校のゴールに突き刺さり
そしてゴールの瞬間とともに終了のホイッスルが鳴る~。」
ゴールが決まったすぐ後に主審が終了のホイッスルを鳴らす。
「2対1で関東大瑞穂高校の勝利です!!」
実況の木村は勝者をそう告げ、解説の栗林監督に話を振ろうと横を向いたとき、
栗林監督は南東京高校の鳥海監督とアイコンタクトでもしているようだった。
「鳥海、まだ俺たちに勝つのは早かったぞ。またな。」
伝わったであろう旧友がすぐ目線をそらしたことに気は抜けないなと感じた栗林だったが、
木村がこちらをむいていることに気づき、逆転ゴールの解説をはじめた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「よっしゃ~」
自分が蹴ったボールがゴールに入ったことを確認した瞬間
喜びと安堵が押し寄せる。
そんな自分に驚きながらも無意識に関東大瑞穂ベンチに向かって走っていた。
待ち構えているのはもちろん兄である志波コーチだ。
「約束は守ったぞ」
そう弟が声をかけると、
「ありがとな」
笑顔で兄が答えた。
「いや~ドキドキしましたよ」
喜んでいる関東大瑞穂ベンチ裏から声がかかる。
そちらを向く志波コーチ。
「おまえら帰ってきてたのか」
その視線の先には、14名の選手がいる。
昨年神奈川県を制覇し、今年はプリンスリーグ関東への昇格を目指す
1軍のメンバーだ。
「ちょうど凌馬がマンマークで苦しんでいるところぐらいから見ていましたよ。
さすがに声かけられる雰囲気じゃなかったので、逆転ゴール後に声掛けさせてもらいました。」
身長は170cmぐらい。決して大柄ではないその集団から1人、
志波コーチの元に近寄ってきた。
「そっちの結果はどうだった?」
「いや~なんとか引き分けたって感じです。
やっぱり強いですよ、FC横浜は。」
まじまじとそう答える。
「そっか。」
志波としては想定内だった。
「じゃあ、栗林監督に挨拶して自分たちは帰ります。」
そう言うと1軍の選手たちはそそくさと解説席へ向かっていった。
「栗林監督」
解説を終えた監督に先ほどの14名は声をかける。
「お疲れさん。
結果は、良くて引き分けって感じか?」
笑顔でそう答える栗林。
「頑張って引き分けでした。」
苦笑いで答える選手たち。
「まぁ、おまえらには悪いことをしたと思ってるよ。
凌馬をこっちの試合に参加させてしまったからな。」
すまんすまんと手を振る。
「そうです。レギュラーの1人がいないってだけじゃなく
うちの司令塔がいないわけですから。攻守に柱がいなくて苦労しましたよ。
しまいには、こっちの試合を見てみたら凌馬がウイングでプレーしているんですから
目を疑いましたよ。」
そう、実は志波凌馬の適正ポジションはウイングではなかったのだ。
「いやいや、2軍の試合にわざわざ凌馬を出場させるのに
なんでレギュラーポジションのボランチで起用するんだよ。
あいつには自分で突破することとゴールを決める意識を芽生えさせたくて
ウイングでプレーさせたかったんだよ。」
今回の練習試合で試したかった起用法だった。
「まぁ、プレーリズムを崩したくなくて最後まで起用するのに悩んではいたけどな。」
特に兄である志波はためらっていたな。
「さぁ、来週からプリンスリーグ関東への挑戦が始まる。
気を引き締めていこうな。」
「はい!」
関東大瑞穂高校にとっても実りある練習試合になった。
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