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第25話「VS関東大瑞穂高校⑦」

「ゴ~~~~~~~ル!!!

後半33分、関東大瑞穂高校同点に追いつく~~~

決めたのは途中出場の背番号10番志波凌馬選手です。」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「よっしゃ~」

ゴールを決めた志波に関東大瑞穂メンバーが駆け寄る。

ベンチも大盛り上がり。

会場もやっと追いついたことでボルテージが上がっている。


しかし、ただ一人を除いて。


「いやまだですよ」

そんなメンバーを制止して、先ほど決めた南東京高校ゴールからボールを手にする志波。


「喜ぶのは逆転してからにしましょう。」

そう言うと駆け足でセンターサークルにボールを運ぶ。


残り7分。形成は逆転する。

守り切るつもりでもうプラン変更が難しい南東京高校。

志波を入れたことで攻撃力が増したが、バランスは崩していない関東大瑞穂高校。

さらに追いついたことで選手・ベンチ・会場の逆転ムードに包まれている。


残り時間は少ないが逆転もあり得る。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


残り時間、決めた選手、決められた内容。

すべてが最悪に近い。


突き放すプランに切り替える時間はもはやない。

やはり俺の考えが甘かったか。

この苦しい時間帯を経験してほしいという気持ちが強すぎた。


「田中」

控え選手を呼ぶ。


「はい、鳥海監督」

呼ばれた田中がベンチから出てくる。


「宮本と交代だ。

ボランチのポジションに入り、佐藤をまた元のポジションに戻す。

それで相手10番のマンマークはやめる。ディフェンス時は4-4-2に戻してくれ。

あと、佐藤に必ず一度チャンスが来る。坂崎からのパスを生かせと伝えてほしい。」

田中に残り時間の指示を伝える。


鳥海の頭では引き分けでも御の字。

だが、決して勝利をあきらめているわけではない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「南東京高校選手の交代をおしらせします。

DMF宮本くんに代わりまして、田中くんが入ります。」

木村のアナウンスが響き渡る。


「さすがに代えますね。

宮本くんの頑張りがここまでの拮抗した試合展開を生んでくれました。」

栗林も素直に評価する。


「同じポジションの変更ですから、南東京高校は引き分けでよしということなのでしょう。」

あわせて南東京高校の意図を説明する。


「なるほど。ではここからは関東大瑞穂高校が逆転できるのか、南東京高校が防ぎきるのか、

残り7分、目が離せないですね。」

木村も興奮しているようだ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「佐藤」

後ろから声がかかる。


振り向く佐藤。


「俺たちはまだ勝利をあきらめていないぞ。

必ずおまえにいいパスを送る。その時は頼むぞ。」

声の主は柏木と坂崎だ。


前半の形をもう一度作る。

そんな固い意志が見える。


「もちろんだ。俺が必ず勝ち越しゴールにつなげてみせる。」

佐藤ももちろんそのつもりだった。


試合が南東京高校のキックオフで再開する。


ここからの試合展開は簡単だった。


宮本がいない。

マンマークもやめた。


関東大瑞穂高校の志波が自由に攻撃のタクトをふるい、

何本ものシュートが南東京高校のゴールマウスを襲う。

ただ、それでも南東京高校の高橋の壁は崩せない。


「高橋、おまえって奴は」

そのあまりにも素晴らしい活躍に感動すら覚える鳥海。


「おまえの活躍に必ず攻撃陣は応えてくれる。

もう少し頑張ってくれ。」

残り2分。その瞬間は必ずくる。



「わりぃ。」

珍しくクロスが長くなる志波。

直接GK高橋にボールが行ってしまった。


それをなんなくキャッチする高橋は、そのままボールを柏木に渡す。

受け取った柏木は、鈴木とパス交換を行い、時間を稼ぐような動きをする。


その動きをみた関東大瑞穂は、一気にゲーゲンプレッシングをかける。

押せ押せムード。何本もシュートを打っている。

同点になってからあまりにも上手くいっていたため、知らず知らずポジションも意識も前傾になっているのに気づいていなかった。


柏木から鈴木へのパスを予測し、一気に動いた関東大瑞穂。


「それもう一回パス出すぞ。」

鈴木へ体を向ける柏木。

それを確認して外に広がりながらパスをもらおうとする鈴木。


柏木はその鈴木へパスを出す動作を開始する。

その動作を見て、ボールの取りどころどばかりにゲーゲンプレッシングのギアが上がる関東大瑞穂。


しかし柏木がインサイドキックで出したボールは、正面を向いていた鈴木ではなく

センターサークル付近までポジションを取っていた右SBの坂崎へと向かっていった。


「しまった。」

関東大瑞穂高校のボランチまでの前線はセンターサークルよりも前に動いてしまっていた。



「ナイス」

ボールを受け取った坂崎の前には、関東大瑞穂のディフェンスラインしかいない大チャンス。

ただ、さすがにドリブルしてボールを運べる余裕はない。

後ろから必死に相手ボランチが戻ってきているからだ。


「頼むぞ、佐藤」

坂崎はトラップしたボールを先制点の場面のようにすぐ佐藤に預ける。


佐藤が前を向けば、相手ディフェンスライン4枚と

加藤・斎藤・山下・佐藤と南東京高校前線4枚の数的同数。

残り時間は1分。


「任せろ」

うちのDF陣が一生懸命守ってリスクをかけてくれた結果のボールだ。

絶対に得点につなげてみせる。


佐藤はそのボールを慎重にトラップして前を向く。

あとは攻めるだけだったが・・・


「さすがになめすぎっすよ。

前半にやられたことやらせるわけないっす。」

いるはずのない背番号10番。

ただ一人南東京高校の動きから自分のポジションを放棄して戻っていた。


そんな志波は、佐藤がトラップした瞬間に体を寄せてボールを奪う。


「なにぃ」

とられた佐藤はバランスを崩して倒れてしまう。


ボールを奪った志波はそのままセンターサークルをドリブルで駆け抜けると

CFへ縦パスを送る。


南東京高校は逆カウンターを受ける形になり、残っているのは柏木と鈴木の両CBのみ。

ボールをトラップした関東大瑞穂のCFは、そのまま志波へボールを戻し、裏へと外に膨らみながら走る。

鈴木は相手CFをフリーにするわけにはいかず、外に少し広がりながらマークにつく。


結果、ボールを貰った志波の目の前には柏木しかいない。


残り30秒。


ドリブルを開始した志波。待ち構える柏木。


最初に動いたのは柏木だ。

ボールを取りにいくのではなく、少しずつ後ろに下がり後方のスペースを消していく。

そしてペナルティエリアに近づいたことを確認してその場で下がるのをやめる。


「この距離のシュートであれば高橋なら止めてくれる。

だから俺がしなきゃいけないのはドリブルで抜かれないこと。

もちろん左足からのシュートコースもできるだけ消す。」

柏木は志波の左足のシュートコースを消すよう半身になり、待ち構える。


立ち止まった柏木を見た志波は、そのままスピードで抜くべく

縦にドリブルをしかけるよう左足のインフロントでボールを前に出すふりをする。


上体もしっかり動いたそのフェイントにひっかかる柏木は、

縦をケアするように後方に一瞬体重を移動する。


その体重移動を見逃さなかった志波は、

左アウトサイドで半身になって前に出ている柏木の右足をかわすように中に切り込んでいく。


「シュートコースが見えた。」

志波の前にDFは誰もいない。

志波が左足を振りぬこうとしたその時にシュートをふせごうとする右足が見える。


「まだだ。」

柏木はあきらめずについてきていた。


必ず左足で蹴る。その情報が逆を取られた柏木にドリブルのコースを教えてしまっていた。


「柏木ナイスだ。」

GK高橋からは完全にシュートコースが防がれていた。


残り10秒


「止めた。」

柏木は確信した。

左足で蹴るならばもうシュートコースはない。


そんな柏木を見た志波は蹴ろうとしていた左足の足裏でボールを止め、

右足にボールを持ち替えワンタッチ、前にボールを蹴りだす。


右足をだしてブロックにいった柏木は、さすがにワンテンポ遅れる。


「ここでキックフェイントか!!

でもそっちからは右足ではないとシュートが打てないぞ。」

後ろから追いかける柏木は左足で無理やり打つシュートコースを防ぐことと

左足に持ち替えた場合の対応に切り替える。


志波はそんな柏木の動きを気にすることもなく、

ペナルティエリアに入ったボールに追いつくと


「いつ右足で蹴れないって言いましたっけ」

その声と共に右足を振りぬく。

そのシュートは、威力抜群でファーサイドの高めのコースに飛んで行った。


GK高橋も右足で強いシュートが飛んでこないと踏んでいた為、

低いシュートにそなえ体勢が低くなっていた。


そこに高めにきたシュート。

いくら高橋でもまったく反応できず。


ただ、逆転を告げるゴールをだまって見守るしかなかった。

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