第23話「南東京、最後の砦が立ち上がる ― 宮本、覚醒**」
「マジかよ……」
誰かが呟いた。
その声は、南東京高校のDFライン全体の本音だった。
(ドリブルだけでも手に負えないのに、
クロスの精度まで化け物かよ……)
志波凌馬。
1年生にして、完全に試合の主役だった。
彼がボールを持つたびに、
南東京の守備ブロックは揺れ、
スタンドの空気が震え、
ベンチの鳥海でさえ息を呑む。
■ 止まらない“嵐”
「志波!」
まただ。
ボランチからの鋭い縦パスが、
南東京の2ラインの“隙間”に吸い込まれるように入る。
志波は完璧なファーストタッチで前を向く。
「橋本頼む!」
柏木の声が飛ぶ。
「わかってる!」
橋本は必死に食らいつく。
だが――
前を向かせないように寄れば、
志波はワンタッチで落としてワンツー。
前を向かせれば、
ドリブルでぶち抜かれるか、
精度抜群のクロスが飛んでくる。
(どうすりゃいいんだよ……)
橋本の心が折れかけた、その瞬間。
■ “股抜き”の衝撃
志波がアウトサイドでボールを減速させる。
(よし、クロスだ)
橋本は読み切ったつもりだった。
右足を伸ばし、
クロスのコースを完全に塞ぐ。
「ナイスだ橋本!」
DF陣がそう思った次の瞬間――
スッ。
志波の左足インフロントが、
橋本の足の下を通してきた。
「なにぃ!!」
股抜き。
完璧すぎるタイミング。
完璧すぎる技術。
橋本は完全に置き去りにされた。
志波はそのまま右サイドを疾走。
カバーに来た柏木すらスピードでぶち抜き、
ペナルティエリアへ侵入。
(終わった……)
南東京の誰もがそう思った。
■ しかし――
「これで同点だ!」
志波が左足でファーサイドへ巻いたシュートを放つ。
完璧な軌道。
完璧なコース。
GKでも触れない“プロのコース”。
だが――
バチィィィン!!
ボールの軌道が変わった。
「1年なめんじゃねえよ」
その声は、
ゴール前の守護神・高橋のものだった。
彼はまるでそこに吸い寄せられたかのように、
完璧なタイミングで飛び、
完璧な手の角度で弾き出した。
「こんな甘いコース、誰でも止められるぜ」
平然と立ち上がる高橋。
(いや、誰でも止められねぇよ……)
南東京の選手たちは心の中で全員ツッコんだ。
志波は頭を抱える。
「そこ止めるかよ……
うちのGKなら入ってるぞ……」
(こりゃ……手ごわいな)
■ 10分間の地獄
その後も志波は止まらない。
ドリブル。
クロス。
カットイン。
ミドル。
ワンツー。
スルーパス。
南東京のゴールは、
まるで嵐の中の小舟のように揺れ続けた。
だが――
そのたびに高橋が立ちはだかった。
何度も。
何度も。
何度も。
「柏木、さすがにしんどいぞ……」
「わかってるよ……」
限界は近い。
■ そして、覚悟の時間
「宮本」
柏木が声をかけた。
その声は震えていたが、
覚悟が宿っていた。
「もうやるしかない」
宮本は短く答えた。
柏木はベンチの鳥海にサインを送る。
鳥海は静かに頷き、
二人に向かってグッドサインを返した。
(頼んだぞ……
抑えるべきポイントは一つだ)
■ そして――その瞬間が来る
「ボールをください!」
志波が要求する。
「頼むぞ!」
ボランチが即座に縦パス。
志波がライン間で受ける。
(次こそ決める)
志波がドリブルを開始した瞬間――
スパァン!!
ボールがタッチラインを割った。
「???」
志波は理解できなかった。
(今……何が……?)
足元から声が聞こえた。
「もうやらせないぞ、1年坊」
志波が視線を落とす。
そこには――
スライディングでボールを刈り取り、
ゆっくりと立ち上がる男がいた。
キャプテンマークを左腕に巻き、
坊主頭を汗で光らせながら、
真正面から志波を睨みつけている。
宮本だった。
「ここから20分よろしくな。
これから自由にできると思うなよ」
その目は、
“絶対に負けない”と語っていた。
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