第23話「VS関東大瑞穂高校⑤」
「マジかよ」
DF陣の一人がつぶやく。
「ドリブルだけでもやばかったのに、クロスの精度もいいのかよ。」
南東京高校の選手たちは一同にそう感じていた。
こいつを相手にあと何十分も守り切れるのか・・・
そんな不安が南東京高校全体を覆い始めた。
「わりぃ、ナイスボールだったのに」
CFが志波に手をあげて謝っていた。
「いえいえ、時間はまだまだあります。
次いきましょう。」
対照的に関東大瑞穂高校の雰囲気は一気に追い風ムード。
それからの試合展開は前半の一方的とは意味が違く、いつ点が入ってもおかしくない状況。
「志波」
後半開始から何度となく見られる光景。
ボランチからまた志波にボールが供給される。
志波は、2ラインで形成されている南東京高校のブロックの間で常にボールを上手く受ける。
「橋本頼む」
CBの柏木が声をかける。
「わかってる」
橋本もなんとか対応しようとはしていた。
ただ、前を向かせないようにプレッシャーをかけると
志波は簡単にインサイドハーフもしくはボランチにワンタッチで落とす。
すると、橋本が前に動く分後ろのスペースが空く。
そこを志波がワンツーでもらう、もしくはインサイドハーフが飛び出して使うことで
サイド深くからマイナスのセンタリングが何本も上がるようになっていた。
逆に前を向かせてしまうと、やりたい放題になっていた。
ドリブルを警戒すると、精度抜群なクロスがゴールを襲い、
パスを警戒するとドリブルでぶっちぎられていた。
「さぁ、次はどうしようか。」
ボールを受け、橋本と対峙する志波。
「何度も自由にさせるか」
次こそ止める。そんな気持ちが表れている。
ドリブルを開始する志波。
橋本がボールを触れる間合いまであと少し。
「縦に抜けるならそろそろ左足のインサイドで前に蹴る。
クロスなら左足のアウトサイドでボールを減速させるはずだ。」
注意深く志波の足元を見る橋本。
志波はボールをアウトサイドで減速させる。
「よし、クロスだ」
橋本は、クロスをあげさせないようパスコースに右足を出す。
対する志波もクロスを上げる体勢に入っている。
「ナイスだ橋本」
南東京高校DF陣は橋本のパスカットを疑わない。
次の瞬間。
志波はクロスをあげようとした左足インフロントで
右足を上げた橋本の下にボールを通す。
「なにぃ」
橋本はボールを股の間に通される。
完全に橋本を抜いた志波は、がら空きになった右サイドを疾走。
ヘルプできた柏木をそのスピードでぶち抜くと、そのままペナルティエリアに侵入。
ボールを左足で蹴りやすいところに丁寧にとめると、
「これで同点だ!」
ファーサイドにカーブをかけたシュートを放つ。
そのままゴールのサイドネットに向かってボールが吸い込まれていく・・・
「1年なめんじゃねえよ」
南東京高校の誰もが失点を覚悟したその時、
ゴールに放たれていたボールの軌道が変わりゴールラインの外にはじき出される。
「こんな甘いシュートコース。誰でも止められるぜ。」
一部の評価では全国レベルとも言われる南東京高校自慢のGK。
高橋は平然とした顔で志波のシュートをストップしていく。
「いや~そこ止めるか。」
頭を抱える志波。
「うちのGKなら入ってるコースなんだけど・・・」
こりゃちょっと手ごわいな。
それからさらに10分間。
志波を中心にこれでもかとシュートの嵐が南東京高校のゴールにせまる。
その度にGKの高橋が決死のセービング。
何度決定機を防いだかわからない。
「柏木、さすがにしんどいぞ」
高橋が声をかける。
「わかっているよ。」
そんな状況、DF陣は誰もがわかっていた。
そろそろ限界だ。
「宮本」
覚悟を決めて柏木は志波封じのキーマンに声をかける。
「もうやるしかない」
意図を汲んだ宮本はそう返事する。
「頼むぞ」
柏木はそう言うとベンチにいる鳥海監督にもサインを送った。
残り20分程度。
ここまで来たら負けたくない。
そんな雰囲気が選手たちから監督の俺に伝わってくる。
「宮本・柏木」
そう呼ぶ俺は二人に向かって頼むぞの気持ちを込めてグッドサインを送る。
抑えるべきポイントはわかりきっている。
俺ももちろん負けたくはない。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「残りあと20分程度、このままでしたら同点はもちろん、逆転も時間の問題ですね。」
試合を見ている観客なら誰もが抱く感想を実況の木村も感じていた。
「確かにGK高橋くんの活躍は素晴らしいですが、
さすがに持ちこたえるのは難しいと思いますよ。
それに南東京高校は守りっぱなしですからね。
精神的にも疲労はかなりあると思います。」
「関東大瑞穂高校の志波くんを抑えられないようだと木村さんが言ったように
逆転まであり得るでしょう。」
栗林監督も手ごたえを感じているようだ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「ボールをください」
手を広げてボランチに要求する志波。
「頼むぞ」
間髪いれず志波にボールを出す。
ライン間でボール受ける志波。
「次こそ決める」
志波自身ももうそろそろシュート数が10本に届きそうだ。
しかし、こんなにシュートを放って入らないのは珍しい。
いい加減決めないとさすがにやばいな。
「次はどうするか」
グラウンドを見渡しドリブルを開始したその瞬間
ボールがタッチラインをわっていた。
「???」
どういうことだ。
「もうやらせないぞ1年坊」
足元から声が聞こえる。
どうやらスライディングタックルでボールを外に出されたみたいだ。
スローインをすぐもらう志波。
ターンをして前を向くと今までとは違う光景を目にする。
「ここから20分よろしくな。
これから自由にできると思うなよ!」
キャプテンマークを左腕にまくボーズ頭が特徴なその人がこっちを見てそう言ってきた。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!




