第22話「VS関東大瑞穂高校④」
「鳥海監督、やっぱりウイングに入ってきましたね。」
控え選手が不安そうに声をかけてくる。
「そのようだな。」
まぁ、想定はしていた。
栗林が監督をしていてこの問題点を放置してるはずがないからな。
ただ、どれくらいの選手なのか。
最初の5分間が重要。
事前に対応策は伝えてある。あとはグラウンド上で実際にどう感じるか。
「任せるしかないな」
やれることはやった。今から不安になってもしょうがない。
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「凌馬」
交代でグラウンドに入る前に今回の監督である兄から声がかかった。
「何ですか?」
「入学したばかりなのに申し訳ない。
ただ、負けるわけにはいかない。頼むぞ。」
情けない顔でこっちを見てくる。
「そんな顔で見てくんなよ。」
思わずコーチと選手の関係ではなく兄弟として返事をしてしまう。
「俺が入って負けるわけないだろ。
どっしりベンチで構えてればいいんだよ。」
不安そうな兄にそう声をかける。
「じゃあ、いってきます」
そう言って自分のポジションへ走り始めた。
「頼むぞ凌馬」
兄である志波は祈る思いでベンチへと返っていった。
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後半開始。
関東大瑞穂高校のキックオフでスタートする。
「宮本」
後ろから声がかかる。
声の主はCBの柏木だ。
「後半から出てきた10番のプレーによって鳥海監督からの指示を実行する。
とにかく最初の5分でやられないようにするぞ」
指示を受けてたのは柏木と宮本だ。
「了解」
宮本が返事をするとともに後半も守備ブロックを形成し始める。
そんな守備ブロックのズレを作ろうと前半同様パス回しをする関東大瑞穂高校。
ただ、前半と違うのは・・・
早速、相手ボランチから右ウイングにパスが入った。
ファーストタッチ。
後方から来たパスをなんなくトラップ。
その一連の動作だけで、今グラウンドにいる関東大瑞穂高校のどの選手よりも
志波凌馬が上手いことがわかる。
「さぁ、兄と約束しちゃったからな。
負けるわけにはいかないな。」
早速ドリブルを始める志波。
一瞬で左MFの山下をぶっちぎる。
「速い」
あまりの速さにつぶやく左SBの橋本だが、
すぐ縦に抜かれないように前に立ちはだかる。
「それなら中に入れるだけだ」
その橋本の動きを見た志波は、縦に抜くことをやめ
利き足である左足でクロスを上げる。
「志波ナイスボール」
1トップでボールを待っていた長身CFが柏木と鈴木の間のスペースに走りこんでいる。
その動きに合わせるかのように精度の高いクロスがペナルティエリア内に入ってきた。
「これで同点だ。」
相手CFがヘディングで南東京高校のゴールにせまった。
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「あ~っと、ゴールバーにはじかれた~」
ボールはゴールバーに当たりゴールラインを超えた。
「いや~惜しかったですね。
早速、交代で入った志波選手の動きが際立ちますね。」
実況の木村は今のプレーで志波選手のファンになってしまったようだ。
「もちろんあれぐらいやってもらわないと困りますね。」
栗林監督は平然と返答する。
「今のプレーをきっかけに試合が動いていくと思いますよ。
南東京高校の選手の顔を見ればわかりますね。」
ここから関東大瑞穂高校の反撃を確信している。
「確かに。驚きを隠せてないですね。
まだ後半開始して3分。このままではいかないでしょう。」
実況の木村もそんな空気を感じていた。
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