第20話「VS関東大瑞穂高校②」
「よし」
思わず右手でガッツポーズ。
出来すぎなぐらい狙い通り。
それにしても坂崎がいい仕事したな。
あの位置でボールをもらうまではもちろん指示したが、
ボールをトラップした時にわざと右MFの斎藤の方向に体を向けて
相手のインサイドハーフをずらして、さらにアンカー横のスペースをあけた。
そのうえで体をひねって佐藤にパス。見事だ。
「坂崎~」
逆サイドにいる坂崎に声をかけ、グッドサインを送る。
坂崎もグッドサインで答えてきた。
「少し自分でよりスペースを空けるためにやったプレーだけど、
鳥海監督はやっぱりすぐ見抜いてくれるな。」
自分のポジションに戻りながら、坂崎はまじまじと感じていた。
「普通は加藤や佐藤を真っ先に褒めるもんだけど、
まず自分に声かけてくれたことがなによりの証拠だな。」
次も監督の期待に応えようと思う坂崎だった。
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「ゴ~~~~ル!!」
「先制したのは、南東京高校だ~~~~!!」
「いや~やられたくないことをいきなりやられましたね。」
栗林監督が苦笑い。
「栗林監督、いったい何があったのでしょうか?」
あっという間の先制劇。
栗林監督は一息ついた後に質問に答える。
「ゲーゲンプレスをかけるには、キックオフ直後だからプレスがかかりづらい。
でも宮本くんが多少もたついたため、プレスをかけられると感じたFWとMFが
前に出てきました。」
「そのうえでCBに戻したため、関東大瑞穂のDF陣はロングボールを警戒し
逆に後ろに下がります。
結果、バイタルエリア付近にぽっかりスペースが空いちゃいましたね。」
「ただ、そこまでは現象であって問題ではなかったと思いますが、
問題だったのは、相手右SBの坂崎くんが外に張ってボールをもらうのではなく、
中にはいってボランチの位置近くでボールをもらったことです。」
「左CBの柏木くんから隣にひらいた鈴木くん、そこから外に張った坂崎くんとパスまわしを想定してプレスをかけた関東大瑞穂のFWとMFの右から左に寄せようとしたスライドがあの位置にいた坂崎くんによって、ちょうど斜めにパスコースがくっきり空いてしまったって感じですね。」
「なるほど。南東京高校は準備してきたってことですか?」
「まぁ、そう言わざる負えないでしょうね。
それとやはりこちらにある程度油断があったのは否定できないでしょう。」
頭を痛めているであろう志波を見ながら解説を続けた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「マジか~」
最悪だ。一番やられちゃいけない。
今回監督を担当している志波は頭を抱えていた。
「サイドバックがビルドアップ時にあそこにポジションを取るなんて
まるでマンチェスターシティのカンセロみたいじゃないか。」
そこまで仕込んできた鳥海に驚きをかくせない。
「まだまだ時間はある。」
自分に言い聞かせるが戦況が最悪なのは変わらない。
関東大瑞穂高校の最大の弱点。
それは先制され追いつかなければならない状況にめっぽう弱いことだ。
引いてきた相手を崩す攻撃力がないことがもっか取り組んでいる課題になる。
志波は一部選手を呼び、これからの指示を伝える。
「元々試す予定だった。選手たちを信じるしかない。」
志波はただ選手たちを信じるしかなかった。
関東大瑞穂高校のキックオフで試合が再開。
丁寧なパス回しが始まった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「栗林監督、ここから関東大瑞穂高校はどうやって追いつくのでしょうか?」
丁寧なパス回しが始まり、何か意図していることは木村も感じていた。
「先制されショートカウンターがしづらくなった今、もちろん取るべき戦術はボールをしっかり保持して相手守備陣のスキを窺うことです。」
淡々と説明する栗林監督。
「それはポゼッションサッカーを行うということですか?」
素人のイメージはバルセロナみたいなサッカー。
「そうですね。その通りだと思います。
ただ、点を取るには必要なピースがうちにはいないことが
あと10分もすればわかってしまうと思いますが・・・」
鳥海が気づいていないわけはない。
「それにもし南東京高校がここまでの展開を想定していたら、
まず対策してくると思いますよ。
ほら、早速対策してきましたね。」
やっぱり想定していたな。
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「監督」
不安な声で呼ぶ声が聞こえる。
「なんだ。」
志波も不安な理由は理解していた。
「全然ボールが前に運べていません。」
ベンチに座る控え選手がピッチ上で苦しんでいるチームメイトの気持ちを代弁してきた。
「わかっている」
余裕がなく、少し声を荒げてしまった。
再開から10分が立とうとしていた。
関東大瑞穂高校のポゼッション率は70%を超えていた。
しかしボールが一向に前に運べていない。
その理由は・・・
「4-4-2」
鳥海監督がつぶやく。
控え選手が鳥海監督に質問する。
「監督、なんで相手はボールを前に運べないんですか?」
「それは、うちが4-4-2システムでブロックを作っているからだ。」
簡潔に答える。
「4-4-2?」
控え選手が全員はてなって顔だ。
「要は、ディフェンスラインに4枚
その前にボランチと両サイドハーフで4枚。
守備ラインが2本できているだろ。」
「確かにそうですね。」
全員が頷く。
「そのブロックを形成できれば守備としては強固だ。
しかもこちらは先制しているから無理に攻める必要がない。」
まさに鉄壁だ。
「それに向こうには・・・・がいない」
なぁ、栗林。
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