第17話「前日」
試合前日の夜。
ミーティングルームの照明は落とされ、
スクリーンに映るのは昨年の南東京高校――ベスト16の試合映像。
志波が腕を組んだまま、ため息をつく。
「監督、これ……やる意味あります?」
昨日と同じ質問。
だが、今日の声はさらに冷めていた。
栗林は肩をすくめる。
「まぁ、ないな」
映像の中の南東京は、
センターラインの個の力こそあるものの、
チームとしてはバラバラだった。
「確か前監督は元Jリーガーだったよな」
栗林が言うと、
志波がスマホを見ながら答える。
「そうですね。
“南東京の躍進は監督のおかげ”って記事が出てます」
栗林は鼻で笑った。
「いやいや……ひどいなこのチーム。
選手任せ、コンセプトゼロ。
これで勝てるわけがない」
映像を止める。
「こんなチームが監督交代だけで変わりますかね」
志波が呆れたように言う。
栗林は少しだけ考え、
そして静かに言った。
「変わるだろ。
俺たちがそうだったようにな」
志波が黙る。
「ただ……今回は時間が短すぎる。
あいつでも、さすがに間に合わないかもしれない」
“あいつ”
その言い方に、志波が気づく。
「監督……その“鳥海”って人、そんなにすごいんですか?」
栗林は笑った。
「サッカーは下手だよ。
万年補欠。
でも――戦術だけは天才だった」
志波が目を見開く。
「中学の時、東京都を優勝したって……」
「そうだ。
そして戦術を組んでいたのは、監督じゃなくて鳥海だ」
志波は絶句した。
栗林はスクリーンを見つめながら言う。
「だからこそ、面白いんだよ。
あいつがどんなチームを作るのか」
志波が気を取り直して聞く。
「で、明日のゲームプランは?」
栗林は迷いなく答えた。
「基本は前からのプレスとショートカウンター。
だが今回は――ポゼッションを試す」
志波が眉をひそめる。
「それと……ウイングに“あいつ”を使う」
「あいつ……ですか」
不安が隠せない。
「うちがプリンスに上がるには、あいつが覚醒するしかない」
志波は苦笑しながら、スタメン表を差し出した。
「では、このメンバーでいきましょう」
栗林は頷いた。
「鳥海……明日、楽しませてくれよ」
■ <南東京高校・鳥海視点>
瑞穂の直近の試合映像を見終え、
俺は深く息を吐いた。
「……やっぱり手ごわいな」
当たり前の感想だ。
映像の中の瑞穂は、
二軍とは思えない完成度だった。
「明日はメンバーが違うとはいえ……
このチームと試合をするのか」
頭が痛くなる。
だが、唯一の救いがある。
「向こうが分析してるのは“前監督の南東京”だけだ。
今の俺たちの姿は、まだ誰も知らない」
栗林の顔が脳裏に浮かぶ。
(どうせ“ひどいチームだ”とか言ってるんだろうな)
だが、それでいい。
その油断こそ、唯一のチャンスだ。
「多分、あいつはポゼッションを試したくなる。
だが……うちにそれを防ぐ力はない。
時間がなかったからな」
だからこそ――
「確実にやってくるショートカウンターを防ぐ。
そこだけは……びっくりさせてやる自信がある」
もし、もしも先制できたら――
試合は一気に面白くなる。
「ただ……逆転されるとしたら……」
口に出すのはやめた。
言葉にした瞬間、現実になりそうだから。
俺はホワイトボードに目を向ける。
明日の試合。
その先にあるレギュラー組との決戦。
「この試合を経験すれば、
サブ組は劇的に成長する。
個の力に戦術が乗ったチームがどれだけ強いか、
身をもって知るだろう」
そして、静かに呟いた。
「栗林……頼むよ。
お前のチームで、うちを成長させてくれ」
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