第16話「攻撃の形」
守備の形が見え始めた。
次は――攻撃だ。
鳥海は選手たちを前に立ち、静かに口を開いた。
「じゃあ、次は攻撃面の形を説明したい。
これも後ろからのボールのつなぎ方になる。
守備陣にも“約束事”を覚えてもらう」
選手たちの表情が引き締まる。
「ボールを運ぶ形を一つ。
それがダメだった場合の形を一つ。
それでもダメなら――ボールを捨てる」
その言葉に、選手たちの背筋が伸びた。
「一番ダメなのは、プレーの選択が遅くなり、
相手のゲーゲンプレスにはまってショートカウンターを食らうことだ」
瑞穂の強みを知っているからこその言葉。
全員が息を呑む。
■ ビルドアップの“最初の形”
「では、ビルドアップの形を説明する」
鳥海は地面に図を描きながら続ける。
「GKかDFがボールを確保したら、
まずは“ボランチにパスを出せるか”を確認してほしい」
ボランチの2人が前のめりになる。
「ボランチは、受けた瞬間に前を向けるポジションを取れ。
前を向けたら――
佐藤に預けるか、加藤への裏抜けのパス。
あとはミドルシュートだ」
シンプルだが、強い。
「佐藤」
「はい」
佐藤が前に出る。
「そこから先は任せる。
ただし、橋本の上がりを使う時だけ、
ボランチがスペースを埋めているか確認してくれ」
「わかりました」
佐藤は短く答え、列に戻る。
■ “意図ある前進”の練習
「よし。この形を練習する。始めてくれ」
選手たちは一斉に散り、
GK → CB → ボランチ → 佐藤 → 加藤
という流れを繰り返す。
15分もすると、
ぎこちなさが消え、
“意図”が見え始めた。
鳥海は満足げに頷く。
「じゃあ、次はこの形が上手くいかない時の練習だ」
「はい!」
選手たちの声が揃う。
■ SBが主役になる“第二の形”
「ボランチにボールを入れられない場合――
サイドバックが重要になる」
鳥海の声が響く。
「CBは縦が無理なら、どちらかのサイドへボールを動かせ。
その時、SBは“外に張りすぎない”ことを意識してくれ」
「外に張りすぎない……ですか?」
右SBの坂崎が手を挙げた。
橋本とは対照的な、頭脳派のSBだ。
「そうだ。
日本では“外に張れ”とよく言われるが……
低い位置で外に張ると、パスコースが縦一択になる。
後ろ向きで受けるしかなくなり、
プレスにはまる。
良いことは一つもない」
坂崎は苦笑しながら頷く。
「続けるぞ。
SBは高い位置で外に張るか、
あるいは“中にポジションを取る”」
「中に……ですか?」
また坂崎だ。
「そうだ。
SBだからって外にいなきゃいけないわけじゃない。
中に入ってパスの中継地点になることも重要だ」
「初めて聞きました……」
坂崎の目が見開かれる。
■ SB革命の1時間
「では、この形を練習する」
坂崎と橋本が、
何度も何度もポジションを微調整する。
一歩ズレるだけで、
パスコースが3つから1つに減る。
二人の額には汗だけでなく、
“知恵熱”のような熱がこもっていた。
「よし、ここまでにしておこう」
鳥海が声をかけると、
二人は心底ホッとした顔をした。
■ 最後の選択肢 ― “ボールを捨てる”
「最後に、ボールを捨てる判断だ」
鳥海の声が低くなる。
「今の形を使っても前に運べない場合は、
逆サイドにボールを迂回させて同じ形を作る。
それでもダメなら――」
全員が息を呑む。
「GK高橋に戻して、
加藤への裏か、両サイドMFへのロングボールだ」
高橋が静かに頷く。
「攻撃の形は以上だ。
短い時間だが……これだけできれば十分だ」
鳥海の言葉に、
選手たちの顔が誇らしげに輝いた。
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