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第15話「伝わったのかもな」

関東大瑞穂高校との練習試合まで1週間


「集合」

いつもどおりミーティングを行う。


「今日は重大発表がある。」

選手がざわつく。


「今週の土曜日に練習試合を行う。

相手は関東大瑞穂高校だ。」


あれ、リアクションがない。

聞こえなかったのかもしれない。


「もう一度言う。

対戦相手は


「聞こえてます!!」

宮本がさえぎってくる。


「じゃあ、反応してくれよ。

寂しかっただろ」


「できないっす!!」

選手全員がツッコんできた。


「気を取り直して、

昨年神奈川を制覇した相手と試合をする。

そして、そのあとに待っているのが一番大事なレギュラー組との試合になる。」


「今回の試合で色々な経験をしてほしいと思う。

もちろん負けるつもりはない。

うちと違ってあちらの情報は結構ある。

しっかりと対策して臨むつもりだ。」


「さっそくだが、関東大瑞穂高校の特徴ってわかるか?」

そう言う俺に


「自分、結構サッカーを見るの好きだったんでわかります」

佐藤が発言する。


「じゃあ、教えてくれ」


「はい、昨年のチームとコンセプトが変わっていなければ、

相手にボールを持たせるチームですね。

相手のビルドアップの際にプレスをかけて奪ってショートカウンターで

点を取るって感じですね。」

そのとおりだ。


「ありがとう。そのとおりだ」


「いえ」

佐藤が後ろに下がる。


「今回に関しては、力関係があるためこちらにボールを渡すかは不明だ。

それとビルドアップの形はうちにはまだないから、つなぐことはある程度捨てる。

そのうえで、まずは守備から構築する。」


「高橋、柏木」

守備の要を呼ぶ。


「はい」

二人とも前へ出る。


「ディフェンスラインは結構下げていいぞ。

昨年とは違うと思うが、向こうに身長が高い選手は見当たらなかった。

ショートパスでつながれて後ろのスペースを使われるほうが面倒だ。」


「それとボールを奪ったら、佐藤へのパスコースだけ意識しろ。

そこがつながらなかったら、加藤への裏のスペースへ出すだけでいい。」


「わかりました」

二人が下がっていく。


「それじゃあ、いつもの練習のあとに

今回の試合で起こりそうなシチュエーションの練習を行う。

じゃあ、始めてくれ」


宮本を中心にいつもの練習がスタートする。


一通りの練習が終わる。


「監督、いつものメニューが終了しました。」

宮本が声をかけに来た。


「わかった。じゃあ、集合してくれ」

選手が集まってくる。


「まずは、守備の局面からだ。

一番警戒すべきはショートカウンターだ。

たぶんだが、サイドバックもしくはボランチからのパスコースをつぶされ、

ボールを取られることが多いはずだ。」


「相手のフォーメーションにもよるが、うちのCB2人に逆サイドのSB1人に対して

相手は、ボールを奪ったMF1人にFWが1人か2人と逆サイドMFとボランチ1人が中に入ってきての

最大で3対5の局面になるはずだ。」


「柏木」

キーマンに質問する。


「この局面で危険な選択肢はなんだ?」


少し考える柏木。


「やっぱり一発でやられるのがきついので、両CBの間のスペースにパスを出されて

GKと1対1になることですね。」


「正解だ。

今回は、どうしてもサイドバックやボランチの位置でボールを取られると、CBの1人がボールフォルダーにプレスをかけにいかないといけない。

いかないと自由にパスを出されるからだ。

だが、残りの2人とのプレスのタイミングが悪いと裏に簡単に出されてしまう。」


「そこでうちのやり方は、奪われたボールフォルダーへのプレスが第一ではなく、

残りの二人が裏のスペースのケアをすることを一番とする。

それを確認してからボールフォルダーに近いCBがプレスに行ってくれ。」

柏木が頷く。


「もちろんここで問題点が一つある。

なぁ、高橋」

もう一人のキーマンに話しかける。


「そうですね。

自分が頑張らないといけないですね。」

さすがにわかるな。


「うちのDFラインが下がるということは、バイタルエリアががっつり空くということだ。

まぁ、ミドルシュートが打ち放題って感じだな。

だが、うちには東京都でも指折りのGKがいるからな。

そっちのほうが止めてくれる確率が高い。」


「以上を踏まえて、3対5の練習を行う。

攻撃陣は、可能ならCF加藤への裏パス。

ダメなら、MF佐藤のミドルシュートで終わるように攻めてくれ。

守備陣はCF加藤への裏パスケアを第一に守備してくれ。

いいな」


「はい!!」

選手が自分のポジションに散らばっていく。


練習が開始。


目的がはっきりしているからか、

攻撃陣も守備陣もプレーに迷いがない。

お互いの声掛けもかなり具体的だ。


「柏木」

高橋が声をかける


「なんだ」

小走りで駆け寄ってくる。


「裏ケアはかなり上手くいってると思う。

そのうえでの相談だが、ミドルシュートのコースぎりをもうちょっと意識してほしい。

佐藤のくせがわかるからなんとか防げるが、何度かこれはやばいというシチュエーションがあった。」


「わかった、やってみるわ」

そう言うと柏木はすぐ自分のポジションに戻っていく。


「そういえば、こんな会話前はなかったな。

なんでできないんだとか結果に対して文句を言いあうだけだったからな。

これも明確なコンセプトがあることの違いなのか。

監督が代わるってのは大きいのかもな」

そう感じつつ高橋もゴール前に戻っていく。


「柏木裏ケア」

高橋が声をかける


「わかってる」

加藤が走れるスペースを消す。


「佐藤」

攻撃陣が加藤を使うのをやめ、佐藤に横パスを出す。


「次こそ決める」

佐藤がトラップをする。


「柏木!左を切れ」


「了解!」

柏木が加藤がオフサイドラインを超えているのを確認して、

佐藤へ向かってプレッシャーをかける。


「ちっ、シュートコースが。」

やむを得ず、佐藤は右側にシュートする。


「よくやった。」

高橋が真正面でボールをキャッチした。


一連のプレーを見ていた俺は

「ブラボー」

思わず変な言葉が出てしまった。

一番やられたくない攻撃をうまく防いだ守備陣への称賛。


もちろん準備が少ないのはわかっている。

でも選手たちに伝わってほしいのは、明確なコンセプトの必要性。


「伝わり始めたかもな」

嬉しさを隠せなかった。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価宜しくお願いします!!

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