第15話「伝わったのかもな」
「集合!」
いつものようにミーティングが始まる。
だが、今日の空気はどこか違う。
鳥海の声に、選手たちの背筋が自然と伸びる。
「今日は重大発表がある」
ざわつくサブ組。
そのざわつきが、期待と不安の入り混じった音に聞こえる。
「今週の土曜日に練習試合を行う。
相手は――関東大瑞穂高校だ」
……沈黙。
あれ? 反応がない。
聞こえていないのか?
「もう一度言う。対戦相手は――」
「聞こえてます!!」
宮本が叫ぶ。
「じゃあ反応してくれよ。寂しかっただろ」
「できないっす!!」
全員が揃ってツッコむ。
緊張が一瞬でほぐれた。
鳥海は笑い、そして真顔に戻る。
「昨年、神奈川を制覇した相手だ。
そのあとに待っているのは――レギュラー組との試合だ」
空気が一気に引き締まる。
「今回の試合で、色々な経験をしてほしい。
もちろん負けるつもりはない。
相手の情報は揃っている。
しっかり対策して臨む」
鳥海は一歩前に出る。
「関東大瑞穂高校の特徴、わかるか?」
静寂を破ったのは佐藤だった。
「自分、結構サッカー見るの好きなんで……わかります」
「じゃあ教えてくれ」
「はい。
昨年とコンセプトが変わっていなければ、
“相手にボールを持たせるチーム”です。
ビルドアップにプレスをかけて奪い、ショートカウンターで仕留めるタイプです」
鳥海は満足げに頷く。
「ありがとう。そのとおりだ」
佐藤が下がる。
「今回はこちらにボールを持たせるかは不明だ。
それに、うちにはまだビルドアップの形がない。
だから――つなぐことは捨てる。
まずは守備から構築する」
鳥海の声が、グラウンドに響く。
■ 守備の要を呼ぶ
「高橋、柏木」
「はい!」
二人が前に出る。
「ディフェンスラインは下げていい。
向こうは高さがない。
ショートパスでつながれて裏を使われるほうが厄介だ」
「ボールを奪ったら、まず佐藤へのパスコースを意識しろ。
無理なら加藤への裏。
それだけでいい」
二人は力強く頷き、列に戻る。
■ 実戦形式の戦術練習
いつもの練習が終わり、鳥海が声をかける。
「集合!」
選手たちが集まる。
「まずは守備の局面からだ。
一番警戒すべきはショートカウンター」
鳥海は地面に図を描く。
「サイドバック、もしくはボランチでパスコースを潰され、
ボールを奪われる。
その瞬間、相手は最大で3対5の局面を作ってくる」
「柏木」
「はい!」
「この局面で一番危険なのは?」
柏木は少し考え、答える。
「両CBの間に通されて、GKと1対1になることです」
「正解だ」
鳥海は続ける。
「だから、うちのやり方はこうだ。
“奪われた瞬間、まず裏のケアを優先する”
ボールフォルダーへのプレスはその後だ」
柏木が深く頷く。
「ただし――問題が一つある。
なぁ、高橋」
「そうですね。
自分が頑張らないといけないですね」
鳥海は笑う。
「DFラインが下がるということは、バイタルが空く。
ミドルシュートが打ち放題だ。
だが――うちには東京都でも指折りのGKがいる」
高橋は静かに胸を張った。
■ 3対5の実戦練習
「攻撃陣は加藤への裏、ダメなら佐藤のミドル。
守備陣は加藤の裏ケアを最優先。
いいな!」
「はい!!」
練習が始まる。
目的が明確だから、動きに迷いがない。
声も具体的で、連携が生まれている。
「柏木!」
高橋が呼ぶ。
「なんだ!」
「裏ケアは完璧だ。
そのうえで……ミドルのコースぎり、もう少し意識してくれ。
佐藤のクセは読めるが、何度か危なかった」
「わかった、やってみる!」
柏木が走り戻る。
高橋は心の中でつぶやく。
(前はこんな会話なかったよな……
文句ばっかりで、誰も“どう改善するか”なんて言わなかった。
これが……コンセプトの力か)
■ 最高の守備
「柏木裏ケア!」
「わかってる!」
加藤の走るスペースを消す。
「佐藤!」
攻撃陣が佐藤に横パス。
「次こそ決める」
佐藤がトラップ。
「柏木!左を切れ!」
「了解!」
柏木が角度を消す。
「ちっ……!」
佐藤は右にシュート。
「よくやった」
高橋が真正面でキャッチ。
その瞬間――
「ブラボー」
鳥海の口から、思わず言葉が漏れた。
■ 鳥海の胸に灯るもの
一番やられたくない攻撃を、
“意図”を持って防いだ守備陣。
まだ準備期間は短い。
まだ未完成だ。
だが――
「伝わり始めたかもな」
鳥海は嬉しさを隠せなかった。
南東京高校は、確実に変わり始めている。
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