第12話「そんな奴いたわ」
「じゃあ、早速自分で考えた長所と短所を教えてくれ」
自然と声に期待が乗っていた。
佐藤の面談があまりにも濃密で、
その余韻がまだ胸に残っていたからだ。
だが――
「監督、わかんなかったです!」
加藤は、
まるで晴れた空のように澄んだ声で言い放った。
「……はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
「精一杯考えましたよ?
自分の良いところ、悪いところ。
他人にも聞きましたし」
「でもしっくりこなかったんですよね」
加藤は首をかしげる。
「例えば“オフザボールの質が高い”って言われても、
空いてるスペースに走ってるだけですし。
“シュートが正確”って言われても……
逆にGKとの1対1をどう外すのって思っちゃいますし」
俺は苦笑いするしかなかった。
――いたな、こういうタイプ。
説明できない。
でも結果は出る。
感覚で選んだ選択肢が、合理的な答えに直結する。
天才型。
「なので、わかりません」
加藤はあっけらかんと言う。
「でも、足りないところは少しあります」
「どこだ?」
気持ちを切り替えて聞く。
「経験です」
「どんな経験だ?」
「難しいDFとのマッチアップ経験が少ないんですよね」
加藤は淡々と続ける。
「うちのチームで一番は森山だと思いますし、
外からの評価もそうだと思います」
そこまでは普通だ。
だが次の言葉で、俺は固まった。
「でも、あいつフィジカルだけで穴が多いんですよ。
まぁ、高橋が最終的に止めるので問題はないんですけど。
俺も止められますし」
……こいつ、何を言ってるんだ?
驚愕で言葉が出なかった。
森山は確かにフィジカルは強い。
だが、加藤のように“穴”を見抜ける選手はほとんどいない。
ましてや、
「俺も止められますし」
なんて言える選手は、もっといない。
――こいつ、ただの天才じゃない。
“相手の弱点を直感で見抜く怪物”だ。
「そうか。よくわかった。
今日はこれぐらいでいいぞ」
加藤は拍子抜けした顔でこちらを見る。
「わかりました」
そう言って部屋を出ていった。
■ 面談を終えて ― 鳥海の決意
その後、半分のメンバーとの面談を終えた。
みんなの努力が見えた。
悩み、考え、向き合ってきた跡があった。
胸が熱くなる。
「よし……これから俺がやらないといけないことは――」
俺は電話を手に取った。
「もしもし」
「久しぶりだな」
懐かしい声が返ってくる。
「唐突で悪いんだけど、練習試合の相手になってくれないか?」
電話口の相手が驚く気配が伝わる。
「うちがか?」
「まぁ、何軍で相手してくれるかは任せるよ」
「自信があるんだな?」
声に気迫が宿る。
「まだまだだよ。
でも原石はいる。
ちょっと刺激が欲しいんだ」
「わかった。
さすがに一軍は無理だが……期待に応えるように頑張らせてもらう」
「ありがとう。来週の土曜日で頼む」
「了解だ。じゃあまたな」
電話が切れる。
俺は深く息を吸った。
「さぁ、次のステップだ」
ホワイトボードに目を向ける。
フォーメーション図はまだ空欄が多い。
だが、迷いなくペンを走らせた。
CF:加藤
その名前は、
“天才の無自覚”がチームの武器になることを示す印だった。
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