第10話「不器用なりに」
<4日目>
自主練の10mダッシュ
パス連など基本練習を終え、
ミニゲームをしているサブ組を見ている。
「4日目にしてだいぶ浸透してきているな」
下手なプライドがない分吸収が早い。
相変わらず試合を支配しているのは佐藤だ。
抜群のボールスキルと改善されてきたゲームメイク力で
相手チームを圧倒していた。
ただ今回その佐藤より目立っているのが・・・
「うりゃ~」
左サイドでうなり声が聞こえる。
ボールを縦に蹴ると、ものすごいスピードで追いかけていく。
まさに相手をぶっちぎっている。
「よし、追いついた」
ほっとしている様子でボールを止めて、パスをだそうとしていると
「スキあり」
簡単に相手DFに取られていた。
さっきからうるさいこいつは、元陸上部の橋本だ。
あんだけ走るトレーニングについて聞いたときは
しっかりしていたのにと、ギャップがすごい。
「うわ~またやっちまった」
頭を抱える橋本
「早く戻ってこい」
柏木にうながされる。
「よっしゃ~」
またうなりながら戻っていった。
「なんかのコントかこれは」
10回は繰り返されている光景に思わず俺はつぶやいてしまった。
ハーフタイムに入る。
「橋本」
俺は声をかけた
「はい!」
元気よく返事が返ってきた。
「おまえ疲れないのか」
純粋な疑問だ。
「全然っすね」
満面の笑みの橋本
「そ、そうか」
絶句。
「ところでやっぱりそんな感じじゃないとプレーできないのか?」
そう聞く俺に
「そぉすね~
陸上やってた時は個人種目だったんで、団体競技は助け合ってる感じがして楽しいっす。」
これまた光輝く笑顔が返ってきた。
「いやいや、お前の場合は助けられてばっかじゃないのか。」
苦笑いして言うと
「そうですよね。
そこをなんとかしたいんですけど、どうしてもボールを扱うときに迷惑かけちゃうんです」
さっきとは打って変わって真剣な表情で自分の課題を言ってきた。
それなら、少しアドバイスをしてみる。
「そしたら、自分がおとりになることを覚えてみろ」
「どういうことですか?」
「おまえは、足が速い。突破力、いわゆる推進力もある。
そんなプレーを見るととどうしたって相手DFはケアせざる負えない。」
「足元の技術はすぐには改善されない。
でもおまえがどこの場面でそのスピードを使うかは今からでも変えられる。」
「後半は、味方がボールをもらいやすいように動き出してみろ。
空いているスペースに何度も走ってみろ。
正直、ボールが来ない場合も多い。精神的にしんどいだろう。
でもあきらめずに何度も走ってみろ。」
「やってみます!」
そう言うと橋本は戻っていった。
俺はそのままある選手を呼んだ。
「佐藤」
「はい」
「ちょっと気にかけてもらいたいことがある。」
佐藤に橋本へのアドバイスを説明する。
「あいつの走りを見てやって欲しい。
ボールスキル的になんども預けるのが難しいとは思うが、
味方にとっていいおとりになるはずだ。
上手く使ってやってくれ。」
「わかりました。やってみます。」
そう言うと佐藤はフィールドに戻っていった。
後半が開始する。
前半と変わらない光景はある。
橋本が取られる場面も戻っていく景色も。
ただ、少しづつ変化が見えてきている。
顕著なのは、佐藤がボールを持ったときだ。
前半、それこそ佐藤にお任せ。
自分にボールは出てこないだろうという意識、
頼られないだろうというネガティブ。
そんな意識が透けて見えていた。
それが後半に入ったら、佐藤がボールを持つと
一目散に左サイドのスペースに走っている。
正直、ただ走っているだけ。
でもあのスピードだ。
ものすごい躍動している。
「佐藤!」
橋本が声をかける
「俺を使え!」
ものすごいスピードで左サイドをえぐって走る。
さすがに相手DFは無視できない。
右サイドバッグ裏のスペースに走りこむ橋本を
CBがケアに動く。
そこを見逃さない佐藤
「よくやった橋本」
佐藤は橋本を見ながらノールックで
相手CBが動いて開けたスペースにパスを送り込むと
裏を取った加藤がパスを受け、ゴールを決める。
それを見届けた佐藤は、
橋本にかけよると
「今のゴールはおまえのおかげだ。
今度は俺にボールをださせたくなるように、
技術をみがいてくれ」
そう言われた橋本は、
「おう!
早くおまえにパス出させてみるわ」
力強く拳を前に出して応えていた。
「決まりだな。」
俺はその光景を見て、橋本を起用することを決めた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
<4-2-3-1>
CF:
OMF:佐藤
DMF:
SB:橋本(LSB)
CB:
GK:
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