第1話「鳥海潤」
俺の名前は鳥海潤。
今日から、とある都立高校に赴任する社会科の教師だ。
今年で二十二歳。
いわゆる“新米教師”というやつである。
教師という仕事に、特別な憧れがあったわけじゃない。
だが――俺には夢がある。
誰にも言ったことがないし、言えば笑われるに決まっている。
それでも、その夢を叶えるために、俺は教師という道を選んだ。
左手の時計に目をやる。
「……やばい、もうこんな時間か」
赴任初日から遅刻なんて、洒落にならない。
慌てて家を飛び出すと、冬の冷たい空気が頬を刺した。
通勤途中、駅前の売店に貼られたスポーツ新聞の見出しが目に入る。
『名選手、名監督に――新シーズンも“実績主義”揺るがず』
胸の奥がざらつく。
“実績主義”。
その言葉が、俺の夢の前に立ちはだかる巨大な壁だ。
だが、立ち止まっている暇はない。
俺は歩き出す。
今日から始まる新しい環境へ。
――――――――――――――――――――――
都立南東京高校
東京都のほぼ真ん中に位置する南東京市にある学校。
生徒からは「真ん中なのに南東京ってどういうこと?」とよく突っ込まれているらしい。
生徒数は約千名。
一学年三百五十名ほどの、そこそこ大きな学校だ。
その教師になる俺が受け持つのは一年生のクラス。
だが、重要なのはそこじゃない。
俺の夢を叶えるための“舞台”は、別にある。
教室に入り、ざわつく生徒たちの前に立つ。
深呼吸を一つ。
「はじめまして。この度、君たちのクラスを受け持つことになった担任の鳥海です。担当教科は社会科。そして――」
一瞬、言葉を区切る。
生徒たちの視線が集まるのを感じた。
「南東京高校サッカー部の監督です」
教室がざわつく。
“え、新任の社会科の先生が?”
“監督って、あの弱小サッカー部の?”
そんな声が小さく飛び交う。
俺はそのざわめきを静かに受け止めながら、心の中で呟いた。
――ここからだ。俺の夢は、ここから始まる。
これは、
プロ経験も輝かしいキャリアもない一教師が、
日本最高峰のプロ監督を目指す物語である。
常識を疑え。
名選手が、名監督とは限らない。
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