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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第七章〈救国の少女〉編

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7.3 謁見と罰ゲーム(1)

 1428年3月8日、謁見当日を迎えた。

 父王発狂の経緯を思い起こすと、少女との謁見は正直憂鬱だった。

 謁見時間を「夜間の大広間」にしたのは失敗だったかもしれない。明るくて風通しの良い、例えば「日中の庭園」ならば、もう少し明るい気分でいられたものを。


 ちょうどブサック元帥がシノン城に帰還したので、即、謁見した。

 誰かと話していた方が、憂鬱な気分がいくらかまぎれる。


「オルレアン包囲戦の戦況はどうなった?」


 定期連絡なら、数日おきに往復している兵站輸送隊に託せばいいし、急ぎの知らせは使者を送れば済む。

 高位の司令官が帰ってきたのは、あまり良くない兆候だ。

 後方支援と戦地の間で裏切り行為があったか、あるいは撤退の進言だろうかと身構えたが。


「……静かじゃ。四旬節の期間中は何も起こらないかと」

「そ、そうか」


 そのくらいは予想の範囲内だ。

 中身のない、しわがれた報告に拍子抜けした。


「デュノワの容体は?」

「……すこぶる元気じゃった」


 大きな傷がふさがって動けるようになると「体がなまらないように」と、視察を兼ねて町中をちょこまかと走り回り、ブサックがオルレアンを発つ時には、城壁の上からぶんぶんと手を振って見送っていたとか。

 総司令官らしからぬ光景が、容易に目に浮かぶ。


「……四旬節が終わるまでには完治して、前線に復帰できるかと」


 ニシンの戦いで負傷しようが敗北しようが、デュノワの心は折れていない。

 総司令官復帰の知らせは朗報だが、元帥がわざわざ帰還するほどの内容ではない。


「他に何か?」

「……特段、思いつきませぬ」

「ブサック、貴公は元帥だろう。戦地を離れて、じきじきに王に会いに来るからにはそれなりの理由があると思うのだが?」


 つい皮肉を言ってしまった。


「…………恐れながら申し上げます」

「うむ、聞こう」

「……儂が元帥に就くときの条件は、陛下の御身をお守りすること。そして、陛下のそばから絶対に離れるなと仰せつかっておりますゆえ」

「そうだったな」


 ブサックを元帥に推挙したのはリッシュモンだ。

 宮廷からしばらく離れることを見越して、目付け役としてこの老将を置いていった。

 それゆえに、ブサックはリッシュモンの意向を優先するようなところが今まで何度もあった。


「つまり、私に危険が迫っているのか?」

「……わかりませぬ」


 ここ数日の出来事と、ブサックの背景事情を重ね合わせながら、「特に理由もなくブサックが帰ってきた」裏事情について思案する。


 間違いなくリッシュモンの差し金だろう。

 少女を危険視しているのか、単に観察対象なのかはわからないが、この日の謁見にブサックを立ち会わせるために急きょ帰還させたのだ。


 少女が「王太子に会う」と預言したという期日——四旬節を、ブサックまでもが口にするところから、ラ・ピュセルの噂は想像以上に広まっていると推測できる。なにせ、人の出入りを制限しているオルレアンまで伝わっているくらいだ。


 ブサックをはじめ重臣たちは私に報告しないが、諜報員の知らせによれば、オルレアン市民の間ではニシンの戦い以来、「王に見捨てられる」とか「食料が尽きた」とか「どこそこの城壁が破られた」などといった根拠のないデマが流れている。町中に悲観的なムードが漂い、ちょっとしたことで内部から崩壊しかねない。


 そんな市民の心をかろうじて支えているのが、ラ・ピュセルの神秘的な噂だった。

 だから、私の気持ちがどうあれ、少女との謁見を拒否すれば、市民はさらに失望し、軍の士気は下がる。会わなければ示しがつかない。


 夕方、少女が滞在している宿に、迎えの使者を派遣した。

 せめてもの抵抗心のあらわれなのか、謁見用のマントに着替えるのを先延ばしにして、私はくだけた私服のままで大広間を覗きに行った。


「さて、いよいよだな」


 広間を囲む柱の上部には松明が灯され、大型の暖炉では火がちょうどいい感じで爆ぜている。柱の下ではそれぞれ屈強な騎士たちが配置され、何人かが固まって打ち合わせをしている。


 彼らの間をすり抜けて、私はある人物を探した。

 生まれつき地味な容姿で、男にしてはだいぶ細身だから、騎士や侍従たちの間に紛れると存在感がないに等しい。王のマントを羽織らず、先触れもなければ、誰もシャルル七世がいることに気づかない。


 そんな私とは正反対なのがクレルモン伯だ。

 二歳年上の若き重臣のひとりで、昔から派手な容姿で服装も凝っている。

 おとぎ話に登場する典型的な貴公子らしい人物だった。


「お、見つけたぞ」


 肩をポンと叩く。

 厚みがあるのに柔らかい、すばらしい手触りのベルベットだ。

 布地をたっぷりと贅沢に使い、ギャザーを絞って形良くふくらませた袖には、計算され尽くした切れ込みがあり、色違いの裏地をちらりと覗かせている。


「わわ、陛下ではありませんか! まもなく謁見時間のはずでは……?」

「そうなんだ」


 クレルモン伯は驚いて振り返ると、私を見て怪訝な表情を浮かべた。


「恐れながら申し上げますが、お召し物を変えた方がよろしいのではないかと」

「いや、これでいいんだ」

「差し支えなければ、私がコーディネート致しましょうか?」

「クレルモン伯のコーデは素晴らしいと思うよ。今夜もとても似合っている」

「はっ、お褒めにあずかり光栄です……」


 いつも卒のないクレルモン伯だが、少し警戒しているようだ。勘がいい。


「突然だが、ニシンの戦いでの賞罰を申し渡そうと思ってね」

「え……、えぇっ! 今ですか?」


 私は唇の前に人差し指を立てて、声を上げないように合図すると、罰ゲームと称してクレルモン伯に「王のマントを羽織って玉座に座るように」と命じた。



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