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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第七章〈救国の少女〉編

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7.7 神との契約(2)

 どんな顔をすればいいのか、何と言えばいいのか——、私は戸惑っていた。

 茶番と言っては失礼だが、ジャンヌがやっていることは子供のごっこ遊びだ。

 おもしろい余興だとしても、間に受けてはいけない。


(この子は何が狙いなのかを見極めなければ!)


 王に取り入るためのパフォーマンスだとしたら稚拙すぎる。


 一般的に王侯貴族というものは、良くいえば誇り高く、悪くいえば高慢だ。

 その頂点に君臨する王に面と向かって、「王国はあなたのものではない」と告げ、さらに神を気取って「王国の土地権利書を授ける」などと言われたら、まともな君主は権威をバカにされたと感じるだろう。

 不敬罪で捕らわれ、鞭打ち刑を食らってもおかしくない。


 だが、ジャンヌは、自分の振る舞いをまったく疑うことなく、にこにこと笑っていた。媚びた笑いではない。ましてや、嘲笑でもない。


 例えるなら、大切な人にとっておきのプレゼントを渡して、相手の反応を今か今かと待っている時のわくわくを隠しきれないような——、無邪気な喜びがにじみ出るような、そういう笑顔だ。


 ジャンヌは学がなく、文字を読み書きできない。

 しかし、生まれつき知性を授からなかった人間特有の無垢さでもない。


 ジャンヌ・ラ・ピュセルは不思議な少女だった。


「ああ……、うん、ありがとう」


 とりあえず礼を伝えた。この場にふさわしい表情を作れたかはわからない。

 土地権利書のことはともかく、はるばるシノンまで出向いた意欲と想いはやはり称賛に値するのだからと。


 今ここで不敬をとがめるのは何か違う気がする。


 聖か邪かを見極めるには、もう少し観察する必要がありそうだ。

 このまま対話を続けよう。


「好意の証として、ありがたく受け取ろう」

「何を言ってるんですか」

「うん?」

「好意じゃないですよ」

「……」


 話が噛み合わない。予想外のことばかりだ。

 王太子になって12年、フランス王に即位して7年近く経つ。「風変わりな王」と言われながらもそれなりに経験を積んだと自負しているが、ジャンヌとの謁見はこれまでのセオリーが全然通じない。

 ペースを乱されているのに不愉快ではないのも、不思議な感覚だった。


「これは、神の摂理です」


 学のない山育ちの少女とは到底思えない高度な言葉がまた出た。

 ジャンヌは小難しい専門用語は自分に似合わないとでも思ったのか、少し顔を赤らめて言い直した。


「えっと……、あたしには難しいことは分かりません。でも単純なことだと思うんです」


 そう前置きすると、彼女なりの解釈を話し始めた。


「この世界にあるものはすべて神様のものです。神様は、植物も動物も人間もすべてのものが親から子へ受け継がれていくというルールをお決めになりました。王国も同じです。王太子さまは前の王様のたった一人の息子なんだから、王国を受け継がなくちゃいけません。神様のルールを破ったらこの世界はめちゃくちゃになってしまいます」


 神の摂理「プロビデンス」とは、キリスト教以前の古代からある難しい命題だ。

 高名な神学者たちが数百年前にわたって議論と研究を続けている。

 ジャンヌはそれをいとも単純な言葉で解き明かした。



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