1.7 フランス王22歳、大元帥31歳(4)改訂版
ブルターニュに滞在中、私はリッシュモンの私室に監禁された。いや、この言い方は誤解を招くか。私はリッシュモンと同衾することになった。うん、この言い方も大いに誤解を招くな!
事実だが、いかがわしい意図はない。
読者諸氏の時代の常識では信じられないだろうが、家主と賓客がベッドを共にするのは最大級のもてなし方だったのである。民衆に模範を示すため、王侯貴族は率先してそれをやった。
食卓を共にすることで、敵意のなさを示すのと同じだ。
毒を盛られたり、寝込みを襲われたりする可能性があったら絶対にこんなことはできない。同じ食卓を囲み、同じ樽からワインを飲み、同じベッドで眠ることで互いに敵意がないことを示し、同時に両家に仕える親戚や臣下たちにも「主君同士は仲良しなのだから家臣たちも揉め事を起こすな」と牽制する意図があった。
これだけ力説すれば、私と大元帥の仲を邪推される心配はないな?
よし、話を進めよう。
しかし、今回の場合、本来なら家主はブルターニュ公で、賓客は私のはずなのだが……。
「解せぬ」
ようするに、私とリッシュモンが親密になるべきだと考えているのは、義母ヨランド・ダラゴンだけではなかったということか。
「私のベッドはお気に召しませんか?」
「いや、そういう意味では」
「公弟とはいえ、私はブルターニュに常駐してませんからほぼ未使用です」
寝室の主人だというのに、リッシュモンはここを客間みたいなものだという。
私もパリ生まれだが、王太子としてあそこにいたのはほんの1年足らず。王都の宮廷で安眠できるとは思えない。
「せっかく帰郷したのに長居できなくてすまなかったな」
「昼間、イザベルが言ったことを気にしているのですか?」
「別にそう言う意味では」
イザベルとは、ブルターニュ公の長女の名だ。
「久しぶりなら尚更、故郷で安眠できるのではないか?」
「そうだとよいのですが」
まあ、王が同衾してたら落ち着いていられないか。
とある異国の君主は、寝相の悪さを矯正するために枕の両側にカミソリを置き、寝返りが打てないようにしたらしい。リッシュモンも微動だにしないで眠っている印象があったのだが……。
天蓋から幕を下ろすとベッドは闇に包まれる。同衾といってもお互いの体に触れない程度の距離をとって、私たちは眠りについた。
*
「どうした、リッシュモン?」
私がいるせいなのか、いつもこうなのか。
断続的な喘ぎ声……、明らかにうなされているのを見かねて声をかけた。
「うぅ……」
ベッドの四方を包んでいる幕の一部をひらき、月明かりを取り入れると、枕に手をついて顔を覗き込む。眠っているリッシュモンは眉間の皺がいっそう深い。
政略的な同衾だが、弱みをつかんだとは思わなかった。
夢を見ているのか、どこか具合が悪いのか。
起こすべきか、知らないふりをすべきか。
どうしようかと逡巡していると、こちらの気配を悟ったのか、みずから目を覚ました。
「大丈夫か?」
うっすらまぶたが開き、こちらを認識して驚いた顔を見せた。
覚醒した直後なら、前夜までのいきさつを覚えていなくてもおかしくない。
「ゆうべまでのこと、覚えているか?」
リッシュモンは既婚者だが、一人寝が常だとしたらまるで私が寝込みを襲っているみたいだ。
「先に眠ってしまったようで、申し訳ありません」
「そんなことはどっちだっていい」
「もしや、私はうなされてましたか?」
「……ただの寝息だったと思う」
そう言ったが、リッシュモンは自覚があるようだった。
「同衾中に申し訳ありません」
「どこか具合が悪いのか?」
「いえ……」
少しの沈黙の後、リッシュモンは落ち着かせるように息を吐いた。
「夢を……見ていたようです。昔のことを」
子供が泣いていたという。年頃は、少年というより幼児に近い。
「その子はときどき、私の夢に現れていつも泣きながらこう言うのです。母上、私のことを忘れないで……と。ずっと、その子どもは私自身だと思っていました。母と生き別れた時の、幼いアルテュールなのだろうかと」
私は黙って聞いていた。
心をひらいてくれたことが嬉しくもあったし、この男にも幼い時代があったのだと当たり前のことに気付かされた。
「貴公にもそういう時代があったのだな」
母性に似た優しい気持ちで、ごく自然に手を伸ばし、汗ばんだ額に張り付いた前髪をほぐすようになでた。
「ずっと、私自身だと思っていた。……ですが、そうではないと今気づきました」
リッシュモンは上体を起こすと、「もう大丈夫です」と言って、額を撫でていた私の手を取り、そっと退けた。
「ほう、その子は誰だったんだ?」
月明かりで湖の水面がさざめくように、リッシュモンの瞳が揺れた。
つかの間の沈黙の後、「秘密です」と言いながら乱れた寝具を整えて、再びベッドに潜り込んだ。
「今度こそ、もう寝ましょう」
「心配したのにはぐらかすなよ。気になるだろうが……」
「では、陛下が眠るまでの間だけ、私の秘密を話しましょう」
返事の代わりに、私も並んで床につく。
「昔々、無怖公が母親を探しに出かけた小さな王子を誘拐したことがありました。倒れた乳母にすがりつく王子はまだ言葉もおぼつかないほど幼く、舌足らずな口調で母親を呼んでいました。私はその王子をどうしても助けたかった。無怖公は自分がした悪事をすぐに忘れ、王子の母親は愛人の寝室に入り浸って王子を迎えには来なかったからです。私は人目を盗んで、ようやく王子を連れ出して城を出ようとした時……、城壁に吊るされた……の死体を見て王子は……、目の前をマントで覆って……、何も見ていないすべて忘れろと言い聞かせ……私は……、そのことを思い出しました」
終盤の記憶はあいまいで、どちらが先に眠ったかは定かではない。
ふと気づくと隣で安らかな寝息が聞こえていて、私もつられるようにまどろんで眠ってしまった。





