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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第五章〈謎の狙撃手〉編

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5.5 大元帥は塩対応(5)原則破るべからず

 面倒なルールが色々あるとはいえ、飽くまでも《《原則》》だ。


「さっきも言ったように、今の私はフランス王じゃないからな!」


 杓子定規に従う必要はない。

 そもそも、私は幼少期にお仕着せの地味な僧服を着ていたし、パン屋のおやじに服を借りるのはなかなか面白そうだ。


「貴公の言う通り、このままでは風邪をひく。着替えを用意してもらおう」

「……なりません」


 しかし、このきまじめな大元帥は「原則」から外れることを許さない。


「じゃあ、どうするんだ」

「恐れ多いですが、私の服を貸します」

「そんなことをしたら、今度は貴公が冷えるだろう」

「私は普段から鍛えてますから平気です」


 それではまるで、私が怠惰で貧弱だから体を冷やしたみたいではないか……と反発したくなったが、さすがに言いがかりだと思ったので、口を閉ざした。


 昔、やむを得ない事情でデュノワと服を交換したときのことを思い出す。

 いとこで歳が近いせいか、背格好は似ているのに、デュノワは鍛錬をしているから私よりも胴回りや肩幅が大きく、布が余ってぶかぶかだった。


 リッシュモンに合わせてあつらえた服なら、体格差はもっとひどいだろう。

 自分の貧弱さを思い浮かべながら、憂鬱な気分でボタンに手をかけようとしたら、またリッシュモンの手が伸びてきた。


「手伝います」


 けがに関係なく、普段から王の着替え全般を大侍従が担っている。

 着替えたり脱がされたり……、いつものことなのに、なぜか今は妙に気恥ずかしい。


 リッシュモンは王の肌に触れないように、濡れた上衣を慎重に剥ぎ取ると、暖炉に寄せた椅子の背もたれにかけた。


「中までだいぶ濡れてしまいましたね……」


 リッシュモンの眉間がさらに険しくなる。

 一番下の肌着は薄地のリネンで、さらりとした丈夫で吸湿性がある織物だ。

 袖を中心に水気を吸っていて、布全体がじっとりと湿っている。


「なあ、これも脱ぐのか?」


 リッシュモンは胸元を結んだ紐に手をかけたまま、何も言わない。

 そのまま放置されて、私は手持ち無沙汰で少し戸惑った。


「どうした?」


 そう言いかけて、またくしゃみが出た。

 鼻の奥がむずむずして、このままだと本当に風邪をひきそうだ。


「失礼しました」


 彫像と化していたリッシュモンは再び動き出し、胸元の紐をほどく。

 続いて肌着の内側——、脚部を覆うショースと結びつけている部分に手を掛ける。読者諸氏の時代と違って伸縮性のある素材はない。衣服は上から下まで紐やボタンでつながっていて、外せばすとんとずり落ちる。


 気まずいのはお互い様だ。何も言わず、なすがままに身を任せる。


 あらかた脱がされてしまい、リッシュモンは私を見ないように顔を背けながら、今度は自分の服に手をかけた。脱ぎながらますます眉間が険しくなる。


「こちらにお召し替えを……」


 差し出され、肩にかけられた大柄の衣服はしっとり湿っていた。


「なんだ。貴公の服も乾いているとは言い難いな」


 いや、明確に濡れている。

 私よりいくらかマシだが、乾かす必要があるレベルで濡れている。

 着替えにはなりそうもない。


「申し訳ありません……」

「どうするんだ」


 半裸で立ち尽くす私と、薄いリネンの肌着を身につけただけのリッシュモン。

 暖炉は十分に燃えているが、体は炎に面した片側だけが明るく熱くて、反対側は冷え冷えとしている。他に暖を取れそうものといえば、部屋の真ん中に置かれたベッドの寝具くらいしかなかった。

 


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