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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第一章〈逆臣だらけの宮廷〉編

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1.5 フランス王22歳、大元帥31歳(2)改訂版

 ブルターニュ半島のギザギザと切り立った海辺は荒涼としていて部外者を寄せ付けないが、陸路ならアンジューの西端の先、すぐ隣に位置している。


「わざわざ陛下じきじきにお越しいただけるとは、まさに光栄の極み!」


 アンジューとの境界に近い都市レンヌで、私は「フランス王として」盛大に迎えられた。思い返せば、王太子時代に私の家臣がブルターニュ公を拉致・監禁したり、私自身も軍港ラ・ロシェルへ向かう途中でブルターニュ軍の攻撃を受け、火砲をぶっ放して追い払ったり……、よく考えたらブルターニュとの間によい思い出はないのだが、それはさておき!


 国王と公爵の直接対面ということで最上級の会談が設けられ、私たちはフランスとブルターニュの同盟関係の強化を確認し、イングランドにまつわる諸問題に共同で対処することで合意した。ニュース記事のような報告をくどくど記しても仕方ないのでこの辺で切り上げよう。


「弟の栄誉に反対する理由がありましょうか」


 リッシュモンのフランス大元帥就任もすんなり認められた。


「私は陛下の姉君であるフランス王女を娶りました。そして、このたびは、若きフランス王はわが弟を唯一無二のパートナーに選ばれた……という認識でよろしいですね?」


 皮肉めいた言い方が少々引っかかるが、空気を読んでうなずいておく。

 ブルターニュ公はかたわらに控える弟にばちんとウインクして、リッシュモンは不機嫌そうに、むしろ照れたようにぷいっと視線を逸らした。身内の前で、隠しきれない素顔をさらすリッシュモンは希少(レア)で、なかなか(おもむき)深い。案外かわいいところがあるじゃないか。


「弟が、念願の相手から寵愛を得られて私も感慨深い……」


 ブルターニュ公は優しいまなざしで弟を見つめていたが、こちらに向き直った。


「個人的にも当家にとっても僥倖です。


 上機嫌なその瞳の奥には、猛禽類を思わせる不敵な光がきらめいている。

 直接対面する機会など滅多にない。私を値踏みしているのだろう。


「両家の関係がこれほど親密になったのは、史上初めてでしょう」

「おや、そうだろうか?」

「ほう、陛下のご見識をお聞かせください」

「ブルターニュ公の愛妻家ぶりは私も聞き及んでいる。公爵の妻は私の姉であり、フランス王女だ」


 フランスとブルターニュの親密さを体現しているのは公爵自身だと伝える。


「では、フランス王は私の義弟ということになりますね」


 事実だが、ちょっとしたマウンティングの意図を込めているのだろう。やはりブルターニュ公は油断ならない。外見は似ているが、まとっている雰囲気がまるで違う兄弟だ。


「不肖の弟のために、義兄上には共通の敵(イングランド)の盾となっていただきたい」


 ブルターニュ公はすうっと目を細めると、「もちろん、心得ておりますとも」と述べた。



「叔父さまーーー!」


 会見場の修道院を出ると、一陣の風とともに少女が中庭から駆けてきて、リッシュモンの膝に飛びついた。


「なんでなんで? なんでアルテおじさまがいるの?」


 女児を筆頭に下の子が3人、私たちの周囲に群がった。

 一目でブルターニュ公の子だとわかる。


「いつまでブルターニュにいるの? ずっといるの?!」

「長居はしない」

「じゃあ、またおばあさまがいるイングランドに行くの?」

「フランスに戻る」


 リッシュモンが数年間イングランドにいたのはアジャンクールの虜囚としてだが、内輪では「実母のところにいた」という話になっているのかもしれない。ブルターニュ公がイングランドと敵対しづらい理由がここに詰まっている。


「フランスにいるのね! 海の向こうじゃないなら少しは近いのよね?」


 リッシュモンの顔は整っているがアジャンクールで負った傷跡がある。いかつい風貌にもかかわらず、甥と姪にずいぶん懐かれているところを見ると根は優しいのだろう。リッシュモンの表情もいくぶん柔らかい。


「ああ。今回は、陛下をお連れするために帰郷したんだ」


 実際は、リッシュモンを一人で帰郷させることを不審に思って、私が半ば強引についてきたようなものだ。王が公爵領に行くとなれば大掛かりな公式行事になるのは避けられない。


「陛下って何のこと?」


 この子たちの母親は私の姉だから、私は「母方の叔父さん」である。

 子どもたちのつぶらな瞳が私に向き、怪訝な表情を浮かべている。


「やあ、ごきげんよう」


 姪と甥とは初対面だ。あらためて自己紹介しようとしたその時。


「みんな、フランス国王陛下の御前ですよ」


 ブルターニュ公妃にして私の実姉ジャンヌのお出ましだ。


「ブルターニュ公の子として恥ずかしくないようにご挨拶しなさい」

「え、え、王様?!」


 子供たちはたちまち慌てふためき、長女とおぼしき少女がドレスの裾をつまんで大人びた挨拶をしてみせた。弟とおぼしき3人も姉にならって次々と挨拶をする。在りし日のアンジュー家のようで微笑ましい。


「お行儀が悪くてごめんなさい」

「シャルル叔父さんと呼んでほしい」

「……そんなこと!」


 ほのぼのしたのも束の間。


「アルテ叔父さまも国王陛下もここへ遊びに来たのではないのですよ。邪魔をしてはなりません」


 形式的な挨拶が済むと、子どもたちは母親の言いつけを守って立ち去ってしまった。


「わたくしの差配が行き渡らず、申し訳ございません」

「まったく問題ない。姉上もお元気そうで何よりだ」

「もったいなきお言葉です。陛下におかれましてはごきげん麗しゅう存じます。どうかごゆるりとおくつろぎ下さいませ」


 血を分けた姉だが、公私の線引きがしっかりしているというべきか。

 よそよそしくて、私が身内扱いされてないことが伝わってくる。フランス王女といえど5歳でブルターニュに嫁いだ人だ。当時の私は生まれてもいなかった。他人行儀になるのは仕方がないのかもしれない。


 せめて、王妃と長男ルイを連れてきていれば家族ぐるみで親交を深められたかもしれないが、残念ながら今回は私ひとりだ。


「貴公はいいなぁ……」


 私のつぶやきを聞き漏らさず、だが真意を計りかねて、リッシュモンが怪訝な顔でこちらの様子をうかがっているが、理由は教えてやらない。


 子どもたちは私を国王と認識すると、急にかしこまってしまった。

 さっきまでのはしゃぎぶりは身内限定ということか。

 私もリッシュモンみたいに、気さくに「叔父さま」と呼ばれたかった。


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