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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第四章〈オルレアン包囲戦・開戦〉編

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4.10 総司令官ソールズベリー伯(2)英仏それぞれの戦果

 一説によると、前夜、ソールズベリー伯は「狼に目を引っかかれる夢」を見て、お抱えの著名な占星術師に相談したところ、案の定、死を警告されたらしい。


 読者諸氏の時代では「うさんくさい占い師」だと思うかもしれないが、占星術は天文学の前身だ。天体を観測して暦を読み、方角や緯度経度を測り、あらゆる数値にかかわる数学者でもあった。

 この占星術師の本意はわからないが、オルレアン攻撃がイングランドに不幸をもたらすと警告されていたことは事実だろう。


 城壁のどこかから打ち込まれた石の砲弾は、イングランド軍に接収されたレ・トゥーレルの上階、窓からオルレアンを視察していたソールズベリー伯に命中した。


「————!!」


 大砲が発射されたときの爆発音と、レ・トゥーレルが破壊された轟音。

 もうもうとする土煙とくずれた瓦礫の中で、イングランド軍総司令官ソールズベリー伯トマス・モンタキュートが昏倒していた。床に血溜まりがみるみる広がっていく。


「総司令官!」

「閣下!」


 オルレアンを見下ろしながら勝利を確信した矢先、イングランド軍は阿鼻叫喚の大混乱におちいった。


「一体、何が起きたんだ?」


 この事態は、フランス軍にとっても想定外だった。

 オルレアンの町では、総司令官のデュノワとブサック元帥が困惑していた。


「こんな時間に誰が?」

「……?」


 互いに顔を見合わせ、首を横に振った。


「どういうこと? 俺、聞いてないんだけど!」

「敵に命中したかわかりませんが、それでも大手柄です」

「どこから砲撃したかわかるか?」

「角度から発射地点を推測すると、ノートルダム塔ではないかと」


 フランス軍の指揮官の中では、オルレアン総督で守備隊のゴークール隊長がもっとも町のことに詳しい。


「その塔はどこにある?」

「大橋を渡り、オルレアンの町に入ってすぐ、礼拝堂の前にある塔です」

「よし、行ってみよう」

「狙撃手を見つけて罰するのですか?」

「まさか! ご褒美をあげるんだよ」


 そこには、けぶる大砲が1門あるのみ。

 砲手どころか兵士も市民も、誰もいなかった。

 礼拝堂にいる人に聞き込みをすると、轟音が聞こえた後、見たことのない少年が塔から出てきて、どこかへ立ち去ったらしい。


「ははは……、不思議なこともあるもんだ」


 謎の狙撃手の正体はわからなかった。

 わずかな目撃者は「見知らぬ少年」だと話し、デュノワが「褒美を出す」とお触れを出しても名乗り出る者はいなかった。


 手柄をあげたオルレアンの英雄、謎の狙撃手をいくら探しても手応えはなかった。


 ミステリアスな噂に尾ひれがつき、ちょうど礼拝堂に面した場所だったことから、信心深い人は「神がオルレアン市民の祈りを聞き入れて天使を派遣し、ソールズベリー伯を討ったのだろう」と考えたようだ。


 重体のソールズベリー伯は、ひそかにオルレアンの郊外に運び出され、三日後の10月27日水曜日に死亡が確認された。享年40歳。片目が破裂し、頭の半分がつぶれていた。


 イングランド軍は12日間の攻防で、オルレアン包囲戦の第一関門レ・トゥーレルを接収したが、フランス軍は「敵軍の頭」である総司令官を屠ったのだった。


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