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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第四章〈オルレアン包囲戦・開戦〉編

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4.9 総司令官ソールズベリー伯(1)

 10月21日にイングランド軍を撃退してから2日後の土曜日。

 レ・トゥーレルの城砦は、まさに「取り付く島がない」かに見えたが、いつのまにか城砦の下に穴を掘られていることが判明した。


 橋上での空騒ぎを(おとり)にして、イングランド軍は橋の下から侵入する作戦だったようだ。気づいた時には、レ・トゥーレルと大橋を支えるアーチがかなり損傷し、基礎部分が危うくなってきた。


「火砲が頻繁に使われるようになったのは最近のことで、その威力は未知数です。橋のアーチが不安定になれば、レ・トゥーレルが砲撃にいつまで耐えられるかわかりません」


 オルレアン総督で守備隊長を務めるゴークールからの報告を聞き、フランス軍総司令官のデュノワはレ・トゥーレルを放棄して撤退することを決めた。


 武器弾薬の他、イングランドに利用されそうな調度品や物資をできるだけ多く町に運び入れる。すぐに持ち運びできないものは惜しまずに解体して、大橋の中程にあるオルレアンの名所「輝ける十字架ラ・ベル・クロワ」の前にバリケードを組み上げた。


 守備隊と傭兵団がレ・トゥーレルから撤収すると、町と「放棄した城砦」を切り離すために、橋のアーチ2個分を破壊した。多少は足止めになるだろう。


「悔しいが、ここまでだ……!」


 10月24日、日曜日。

 レ・トゥーレルの城砦は無人となり、イングランド軍が接収して主人が入れ替わった。

 しばらくすると、オルレアンの青い旗は捨てられて、代わりにイングランドの赤い旗が掲げられた。デュノワもブサック元帥も、守備隊長のゴークールも、兵士も町の人たちも、苦々しい思いでそれを見上げた。


 その日の夕方、イングランド軍総司令官ソールズベリー伯と、取り巻きの指揮官たちがレ・トゥーレルに入城し、最上階の塔にのぼった。内装が少々荒れているが、イングランド王家の紋章——赤地に3頭のライオンが描かれた真新しい旗が、誇らしげにはためいている。フランス陣営としては憎たらしい限りだが。


「いい眺めだ」


 レ・トゥーレルの最上階からは、オルレアンの町とロワール川周辺を一望できた。ソールズベリー伯は高みからの眺めをしばし堪能した。

 乾いた灰色の城壁にはいくつか火砲が設置されている。平たい屋根の町家からは食事を煮炊きするための湯気が立ちのぼり、修道院や教会がある地域には尖った鐘楼がそびえている。郊外はブドウ畑と森林が広がり、ところどころ秋らしく色づいている。フランス一の大河ロワール川のせせらぎは穏やかだった。


「総司令官閣下、この美しい景色をご堪能ください」

「なかなかの絶景だ。そしてこの下流にフランス王シャルルの居城シノンがあるのだったな」

「ご冗談を。そいつは《《自称》》フランス王にすぎません」


 ロワール渓谷は「フランスの庭園」といわれる風光明媚な景勝地だ。

 しかし、ソールズベリー伯はオルレアンの美しい景観を楽しむというより、町を見下ろしながら城壁の弱点を探していた。例えば、城壁の薄いところがあればそこを砲撃し、低いところがあればはしごを立てて侵入を試みる。


「どんな手段であれ、近日中にオルレアンを陥落させたい」


 それがイングランド軍総司令官の使命であり、長年フランス侵攻を推進してきたソールズベリー伯の悲願だった。


「おそらく今年中に、今見ているオルレアンの町すべてが閣下の手中に収まり、ベッドフォード公に朗報をお伝えできるでしょう」


 側近のひとりが、希望的観測をささやいた瞬間。

 レ・トゥーレルの最上階、ソールズベリー伯がたたずむ窓のくぼみに巨石の砲弾が炸裂した。



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