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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第四章〈オルレアン包囲戦・開戦〉編

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4.8 開戦(3)お祭り騒ぎ

 10月21日、木曜日。

 イングランド軍は、オルレアンの町につながる大橋の最初の関門「レ・トゥーレル」の城砦を襲撃した。


 最初の週に、水車を狙った砲撃は「食料供給を断つ」ことが目的だった。

 本格的なオルレアン攻略はここから始まる。


 レ・トゥーレルは、平時であれば、町を出入りする人間の身元確認などを担っている施設だが、包囲戦においては敵を追い返す最前線の防波堤だ。


 読者諸氏の時代の「国家」に例えると、国境で出入国管理をする税関みたいなものだろうか。

 域内の平和と秩序を守るために、善良で金回りのいい外国人は歓迎するが、防犯・防疫をおびやかす危険人物は通さない。無理やり押し入ろうとすれば、冷酷非情に外へ叩き出す。


 オルレアンにとって、レ・トゥーレルはそういう場所だった。


 フランス軍総司令官のデュノワ伯は、町の中枢で待機し、レ・トゥーレルではオルレアンに常駐する守備隊と傭兵団が主力として戦った。ここでは、オルレアン総督で守備隊隊長のゴークール卿が指揮を執る。


 しかし、もっとも熱心に戦ったのは、兵士よりも町の一般人たちだった。


 現状、フランス王国の北部はイングランドが支配している。

 フランス王国ヴァロワ王朝を支持する人からすれば、ベッドフォード公が「フランスとイングランドの連合王国」だと主張しても、祖国を乗っ取られたも同然だ。そもそも、領主のオルレアン公は、先代シャルル六世の王弟から続くヴァロワ王家の傍系王族で、シャルル・ドルレアンはいまだにロンドン塔に幽閉中だ。


 フランス王国全土を見回しても、オルレアンほどイングランドを憎んでいる町はないだろう。


 町の人たちは、「憎きイングランド兵をぼこぼこにする絶好の機会だ」と大いに張り切った。

 手に職を持つ男たちはもちろん、勇敢で気風のいい商家の女将たちまでもが、燃えさかる炭や煮えたぎる油を入れた鍋やポットを持って、レ・トゥーレルへ駆けつけた。町と城砦をつなぐ橋上では、兵士と町民が大騒ぎで行き交う。


「はいはい、イングランドをボコしたい人は後ろに並んでー!」

「最後尾はこちらでーす」


 橋上では、気を利かせた兵士による交通整理が始まり、長い長い行列ができた。


「早くしないと冷めちゃう!」

「再加熱用の《《かまど》》はこちらでーす」

「待機列が長すぎて、トイレに行きたくなってきた……」

「油と一緒にうんこもお見舞いしてやろうぜ」


 レ・トゥーレルに侵入しようとするイングランド兵に、高みの仕掛け——落とし穴から思い思いに凶器を投げつけて攻撃を加える。


「オラオラオラァ!!」

「ブリカス、死ねぇぇぇ!!」


 プレートアーマーを装備する兵士は、甲冑の下に、金属の当たりを和らげるためにキルティング加工した綿入りの服を着込んでいる。

 そこへ、ぐつぐつ煮え立つ油や(にかわ)(ゼラチン)が絶え間なく降ってきて、甲冑の継ぎ目から布の服へとじわじわ染み込んでくるのだからたまったものではない。


「オルレアンから出てけぇぇぇ!!」

「オルレアン公をはよ返せぇぇぇ!!」


 イングランド兵の第一陣は熱さに耐えきれずに脱落したが、ぬるぬるで熱々の油は、時間が経つと冷めてしまう。

 油攻撃に耐え切ったイングランド兵には、第二撃として、火のついた松明、松脂(まつやに)、真っ赤に焼けた炭などをしこたま投げつける。すると、油が染み込んでべたべたになった布の服に着火する。武器防具で固めた甲冑一式を脱ぎ着するのは容易ではない。イングランド兵は火だるまになってロワール川へ落ちていく。


「よっしゃあぁぁぁ!!」

「ざまあみろおぉぉぉ!!」


 戦争は非日常的で、ある意味「祭り」だ。

 この日のオルレアンは、間違いなくお祭り騒ぎだった。


 イングランド軍では、火傷による負傷者と、甲冑の重みで溺死する被害が相次ぎ、その結果、戦闘開始から四時間後にレ・トゥーレルからの一時撤退を決めた。




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