11.10 ジャンヌの本心(2)フス派への手紙
「恩義であろうと恋愛であろうと、私にできることならシャルル王のご意向が叶うようにしたいところですが……」
ピッコローミニが再び割って入る。
「私は皇帝陛下の臣下ですから、主君に逆らうことはできません」
「当然だよ」
フランス王国と神聖ローマ帝国の間に、波風を立てることは互いに避けたい。
「皇帝陛下はあの少女を利用しようと考えてますが、無理を強いているのではありません。むしろ逆です」
そういうと、一通の手紙を差し出した。
「これは、あの少女がプラハ大学に宛てた手紙です」
「そこは確かフス派の拠点では……」
ピッコローミニはうなずいた。
1430年3月23日の日付けだ。パリ包囲戦の傷が癒えてから、捕縛されたコンピエーニュに旅立つまでの期間に書かれたようだ。
「私が知っている範囲で、シャルル王の心痛を和らげる極秘情報を教えて差し上げましょう。ここに、ジャンヌの意志が書かれています」
驚くべき内容だった。
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教皇に従い、十字軍に降伏しなさい。
さもなければ、あなたたちは煉獄の炎で焼かれるだろう。
罪を悔い改めなければ、ただちにイングランドとの戦いをやめて、
みずからボヘミアに向かい、あなたたちフス派を殲滅する。
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この感情的な手紙が真実なら、ジャンヌは英仏の戦いから身を引き、十字軍としてフス戦争に参戦するつもりだったようだ。このことを知った皇帝と教皇は大いに喜んだ。
なるほど、ジギスムントがジャンヌを利用しようと企んでいるのではない。
ジャンヌの計画に乗っかろうとしている。そういう構図だ。
「皇帝陛下と教皇聖下のもとで戦うことがあの少女の意志ならば、シャルル王は引き渡すことに胸を痛める必要はありません。少女の武運を祈って送り出していただければ、あとはこちらで万事うまく取り計らいます」
ジャンヌの「声」が新たな使命を下したと考えるべきだろう。
コンピエーニュのことがなければ、今ごろジャンヌはフランスを離れていたのかもしれない。
「どうやら、私は思い違いをしていたようだ」
ジャンヌの気持ちを尊重しているようで、私は何もわかってなかった。
私とあの子のつながりはとっくに切れていたのだ。あの子の心はフランスではなく、別の場所へ行ってしまった。あの子は穏やかな日常生活よりも、激しい戦闘生活を望んでいた。そういうことだ。
今、感じているこの痛みは、失恋なのだろうか。
初めてのことでよくわからない。
もし、これが初恋だったとしても、権力を行使してあの子を閉じ込めるのは良くない。権力者の意思に抗うことは難しいのだから、この気持ちを伝えてもいけない。
私は身を引いて、ジャンヌの幸福と武運を祈ろう。
フス派の殲滅、大いに結構じゃないか。
バーゼル公会議でやることは終わった。
帰ろう、フランスへ。
私にはイングランドとの戦いが待っている。
ようやく気持ちの整理がついたとき、フランスから急使が駆けつけた。
「聖女死す」という第一報をたずさえて。
(※)少年期編の冒頭につながりました。7年ぶりに!
▼序章「00 聖女死す」
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