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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十一章〈異端審問と陰謀〉編

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11.5 皇帝ジギスムント(1)謁見

 神聖ローマ帝国の皇帝ジギスムントには、良い印象がまったくない。

 かねてより英仏百年戦争の調停者になろうとして、それはまあいいのだが、皇帝の気分次第でむちゃくちゃな条件を突きつけてくるのだ。


 私が王太子になる前は、イングランドのアジャンクールでの残虐行為に怒り、「ヘンリー五世を諫めてくる」といって渡英したが懐柔されて帰ってきた。


 私が王太子になってからは、「トロワ条約の廃嫡を認めるなら、皇帝が保有するハンガリー王位をやってもいい」などと意味不明な打診をされ、「フランス王位を手放すのもハンガリー王位を継承するのも道理が通らないから」と丁重に断ったところ、ジギスムントは逆ギレして王太子領ドーフィネに攻め込もうとした前科がある。

 あの時、帝国で内乱——フス戦争——が起きなければ、私はイングランドとブルゴーニュに加えて神聖ローマ帝国とも戦う羽目になっていただろう。


 バーゼル公会議では教皇に会いたかったのだが、あいにく不在とのこと。

 教皇に次ぐ権力者は、皇帝ジギスムントになる。

 気が進まないが会わないわけにいかない。

 教皇をローマから呼び出すには、神聖ローマ皇帝の人脈が必要不可欠だ。


 幸い、ジギスムントの私への心象は悪くないようだが、機嫌を損ねないよう細心の注意を払わなければならない。ピッコローミニに事前リサーチしてから謁見に臨んだ。


「会えて嬉しいぞ、フランス王ーーー!!!」


 皇帝は玉座から転がるように駆け降りてきて、まるで離れ離れだった家族と再会したかのような熱烈な抱擁で出迎えられた。


「本物か? そなた、本物のシャルル王だな?」

「お目にかかれて光栄です……!」


 数年前に派遣したシャルティエが何をしたのか知らないが、馴れ馴れしさと押しの強さに少々腰が引ける。ジギスムントのような気難しい権力者は、感情が反転した時の手のひら返しが怖いのだ。慎重にいかなければ。


「どうしていままで会いにきてくれなかったのだ! ……いや、みなまで言わずともわかっている。イングランドとブルゴーニュ公のせいだよな? なぁ?」


「皇帝陛下のいと高き見識は、フランス情勢をすべてお見通しなのですね」


「当然だろう。フランス王と親交を深めるのは歴代皇帝の務めであるし、余は個人的にもシャルル王を気に入っているのだよ。もう何年も前から会いたくて会いたくて……。実現して余は嬉しいぞ!」


 言っておくが初対面である。

 しかも、王太子時代に脅迫されている。

 たぶん、皇帝はもう覚えていないのだろうが。

 内心では呆れ果てているが、本心を隠しながら「光栄です」と礼儀正しく答える。


「……悲しいな。なぜ、そうも他人行儀なのか」


 まずい。慇懃すぎたのか、皇帝が不満を垂れている。


「申し訳ございません。皇帝陛下のご威光に目がくらみ、動揺しているのです」

「深い付き合いに慣れてほしい。余とシャルル王は父子同然の仲なのだから」

「父子とはまた何ともはや……、恐れ多いことです」

「何を言っとる。前にハンガリー王位をくれてやると言っただろうが」

「あっ……」


 ぎくりと虚をつかれ、言葉に詰まる私をまじまじと見つめながら、ジギスムントはにやりと口角を上げた。


「余との因縁、よもや忘れてはおるまい?」


 背中で冷や汗が流れる。

 しばしの沈黙の後、ジギスムントは目尻をしわくちゃにして好々爺のような笑みを浮かべた。だが、垂れたまぶたの向こうではするどい眼光が光っているに違いない。


「ぜひ、父と呼んでくれ」


 さすが皇帝、とんだ食わせ者だ。

 


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