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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十一章〈異端審問と陰謀〉編

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11.1 バーゼル公会議(1)異端審問に異議あり

 寒い季節はあたたかい南フランスでぬくぬくと過ごしたいところだが、このころの私はライン川沿いをさかのぼっていた。上流に行くほど水量が増え、景色が荒涼としてくる。鬱蒼とした森は、夏ならば緑豊かで美しいのだろうが、今は灰色でどこもかしこもささくれ立っている。


「鬱になりそうだ……」


 以前、神聖ローマ帝国に派遣したアラン・シャルティエがいれば、行く先々で面白おかしく道案内してくれただろうが、残念ながら少し前に亡くなっていた。


 そもそも、今は観光している暇などない。

 もう少し行けばフランスの国境を出る。

 目的地はバーゼルという町だ。


 1431年2月22日、イングランドが支配するノルマンディーの首府ルーアンでジャンヌ・ラ・ピュセルの異端審問が開廷した。


 その日は私の誕生日だ。

 偶然とは思えない。私に対する嫌がらせの一環だろう。


 一般的に、十字軍遠征以外の戦争行為は「世俗」の範疇とされ、捕虜の処遇を決めるのは、当該地域を支配する王侯貴族または任命された代官の仕事だ。

 ところが、ジャンヌは戦闘中に捕縛されたにも関わらず、「教会」の管轄に移された。


 英仏・百年戦争もフランス国内の内乱も、かねてより宗教戦争ではない。

 戦闘の当事者であるイングランド王でもブルゴーニュ公でもない、聖職者が主導して捕虜を裁くのは普通はありえない。異例の事態だった。


 キリスト教を中心とするヨーロッパ諸国は、「教会」の権威を最重視する。

 そのため、「世俗」の序列で最高位の皇帝や国王でも、教会のやることに文句をつけることは困難を極める。カノッサの屈辱の故事を借りるまでもなく、神聖ローマ皇帝さえ、教会から破門されることを恐れているのだ。



————————————

(※)カノッサの屈辱:教皇グレゴリウス七世に聖職叙任権をめぐって破門された神聖ローマ皇帝ハインリヒ四世が、教皇滞在中の北イタリア・カノッサ城の城門前で、雪の中を三日間立ち尽くして許しを得た事件。

————————————



 簡単にいうと、聖職叙任権=教会の権利を侵害したと見なされると、皇帝でも相当やばいということだ。


 ようするに、イングランドは世俗の裁きをわざわざ教会にゆだね、私が抗議をしたり弁護・証言する機会を完全に封じた。

 その上で、息のかかった司教の手で憎きジャンヌを断罪することにしたのだ。

 イングランドもブルゴーニュ公も陰険すぎて、正攻法では勝ち目がない。


 だが、ジャンヌを救う方法がない訳じゃない。


 ちょうど2年前、シノン城で謁見したときに教会のルールにしたがってジャンヌの素行調査をしたことを覚えているだろうか。異端審問と同じように、聖職者たちの厳粛な審査を経て少女に問題は見られないと証明され、教皇庁と各地の司教区に文書を送っている。


 しかし、異端審問の現場で、ジャンヌの無罪を証明する文書が省みられる可能性は限りなく低い。


 私は一計を案じ、河港都市バーゼルに向かった。

 フランスとドイツの国境で、王侯貴族と高位聖職者が一堂に集まり「公会議」がひらかれていた。わかりやすくいうと国際会議みたいなものだ。


 各国のトップがヨーロッパ諸国の問題を解決するために開催される。

 バーゼル公会議の主な議題は「フス戦争の終結」と「英仏百年戦争の調停」だから、もともと当事者として呼ばれていたのだが、私の真の目的は別にある。


 ジャンヌの異端審問を止めるには、聖職者の最高位——すなわちローマ教皇に直談判するしかない。

 

「異端審問に異議ありだ。やつらの陰謀をひっくり返してやる……!」


 寒空の下で、私は心を奮い立たせていた。



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