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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十章〈聖女の受難〉編

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10.13 身代金(1)シャルル七世のおこづかい

 1430年9月18日、私の名付け親が亡くなり、その直後の10月、ジャンヌが幽閉先のボールヴォワール城の塔から墜落した。塔の高さと堀の深さを合わせると10メートルも落下したようだが、奇跡的に一命を取り留めた。


 この話を聞いて、私は強く抗議した。

 少女を傷つければ、こちらが預かっている捕虜にも同じことをする——と。


 無怖公殺害の引け目から、これまでの私はブルゴーニュ公に対して下手に出ることが多かったが、このとき初めて恫喝に近いことをした。


 ブルゴーニュ公からの返答は、「拷問にかけたのではないかと疑っているようだが、人質は丁重に扱っている。人質は幽閉先から脱走を試み、みずから落ちた。幸い、命に別状はない」とのことだった。


 ジャンヌ・ラ・ピュセルは神に従順でよく祈りを捧げるが、救いや奇跡をひたすら待つよりも、自分から動いて活路をひらくタイプだ。

 脱走を試みるとは、いかにもあの子らしい。


「国王の希望通り、これまで以上に監視を強化しよう。大事な人質がみずからを傷つけないように……」


 返答は、不吉な言葉で締めくくられていた。

 今回の脱走失敗は、名付け親の死に続いて、ジャンヌの不利な状況に拍車をかけた。監視が強化され、二度目の脱走チャンスはないだろう。

 また、ジャンヌが何らかの事情で命を落とす可能性をほのめかしているようにも聞こえる。事故であれ故意であれ、本当の死因は隠されてジャンヌの自己責任とされるのだろう。


 事情が変わった。穏やかな人質生活はもうありえない。

 私は、義弟ルネ・ダンジューの解放より先に、ジャンヌの解放を最優先することを決めた。


 神の奇跡など待っていられない。

 人として、できるだけのことをしよう。





 人質解放の交渉をしていると聞きつけて、ジャンヌの戦友たちが寄付を集めて持ってきた。革袋の中身は、大枚はたいたエキュ金貨の束からせいぜいパンをひとかたまり買える程度の小銭までさまざまで、ジャンヌの交友の広さを物語っていた。


 彼らは身分も財産もさまざまで、「身代金の足しにして欲しい」という。

 戦友のひとり、デュノワが代弁した。


「宮廷に軍資金がないことは、みんなもうすうす気付いてますからね」


 貨幣の種類がばらばらだから総額はわかりませんがと言いながら、貨幣が詰まった革袋をずいっと差し出した。


「ジャンヌひとりの身代金くらいどうにでも……」

「宮廷の話し合いを待ってる余裕ないでしょう」

「いざとなったら、私のポケットマネーでどうにかする」

「大丈夫なんですか?」

「何が?」


 意味がわからず、子供っぽく首をかしげた私に、デュノワが耳打ちした。


「王の個人資産は4エキュしかないと聞いたんですが」

「え、え? どういうこと? なんで知ってるの?」

「いくらなんでも噂はデマだと思ってたんですが、その動揺っぷりは……」

「げふんげふん!」


 カマをかけられた。

 幼なじみが相手だと、素が出てしまうのは私の悪い癖だ。


「……まったく、財務担当の守秘義務はどうなってるんだ!」

「えぇっ……。この国、本当に大丈夫なんですか」


 開き直ったら、今度はデュノワが青ざめていた。

 なにせ、キャッシュだけならジャンヌの父親よりも貧乏なのだよ私は。


 冗談はさておき。


 戦友だろうと信者だろうと、もはや関係ない。

 聖女を都合よく利用するだけではなく、少女を救うために身銭を切る者がたくさんいる。そのことがわかって救われた思いがする。


「ありがとう。ジャンヌは必ず取り戻す」

「もし、武力行使するときは一声かけてください。いつでも出られるように準備しておきますから」


 そうならないことを祈りつつ、私はうなずいた。

 さらにデュノワはさりげなく辺りを見回すと、小声で「大侍従に盗まれないように気をつけてくださいよ」とささやき、私は苦笑するしかなかった。


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