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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十章〈聖女の受難〉編

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10.12 コンピエーニュ包囲戦(5)第三の母

 ジャンヌがコンピエーニュ包囲戦に参加したのは、開戦からわずか3日間の出来事だ。

 読者諸氏がよく知っている「ジャンヌ・ダルク中心の物語」はその後の包囲戦について語ることはないが、ジャンヌを失った後も戦いは続き、人々の営みも続いている。


 10月26日、ブルゴーニュ公は包囲を解除して撤退した。

 記録上は「コンピエーニュの勝利」と見なされているが、5ヶ月間の包囲で三分の二が破壊された上に、飢餓と疫病が町中に広がり、終戦後も長い間その爪痕を残した。


 ブルゴーニュ公が撤退したのも、冬に備えて収穫と備蓄をする必要に迫られたという季節要因のせいであり、コンピエーニュの「勝利」は名ばかりのもので、実質「切り捨てられた」も同然だった。


 ブルゴーニュ公は包囲戦から手を引いたが、これまでの臣従関係は破綻したため、町の復興に力を貸す義務はない。冬を目前にして、コンピエーニュの町は保護者を失った。春と夏と初秋はずっと籠城していたから、農地は放ったらかしで収穫できるものはほとんどない。

 ブルゴーニュ公に代わって、私が手を差し伸べるには距離が遠すぎた。

 少なくともパリを奪還するまで、パリ以北の地域には手が届かない。


 また、「ジャンヌが捕縛された町」という汚名をかぶったためにジャンヌの信者たちから嫌悪され、敵味方に関係なく「裏切り」や「天罰」の代名詞になってしまった。


 被害の大きい勝利と、被害の少ない敗北。

 どちらのほうがマシだろう。


 私は、ジャンヌは、コンピエーニュの人々は……、どうすれば良かったのだろう。過去に戻ってやり直せるとしても、正しい選択ができるとは思えない。


 都合のいいポジションを確保したのは、ブルゴーニュ公だけだ。


 二つ名「善良公」と呼ばれているが、ある意味、父親の無怖公よりもおそろしい人間かもしれない。ブルゴーニュ公は、最大の戦果「ジャンヌ・ラ・ピュセル」を手に入れたおかげで、英仏を思いのままに操ることが可能になった。





 最初に「ジャンヌ捕縛」の知らせを聞いたとき、私は悪い予感が的中したと思った。


 しかし、続報で「ジャンヌを捕らえたのはイングランドではなくブルゴーニュ」だったこと、しかも「リュクサンブール」という名を聞いて、それほど心配はいらないと思い直した。


 オルレアン包囲戦以来、イングランドは確実にジャンヌに恨みを抱いているが、ブルゴーニュとはこれまで直接戦ったことはなく、彼女をあえて痛めつける理由がなかったからだ。少女を丁重に扱うように求めるとすぐに了承された。


 また、ジャンヌを捕縛したジャン・ド・リュクサンブールの叔母が、私が誕生して洗礼を受けた時の「名付け親」だったことも安堵した一因だった。


 名付け親とは、子供が両親を失ったり育児放棄されたときに親代わりを務める。


 私の場合、実母はイザボー・ド・バヴィエールで、養母はヨランド・ダラゴンだが、第三の母といえるのが名付け親のジャンヌ・ド・リュクサンブールだ。


 ブルゴーニュ公の重臣たちの中で、私と縁あるリュクサブール家につかまったのは、ジャンヌ・ラ・ピュセルにとって不幸中の幸いだった。


 名付け親は、宮仕えの長さゆえに賢い貴婦人だった。

 ジャンヌをイングランドに引き渡すことがどれほど危険かを察知して、居城ボールヴォワール城でともに寝起きしてジャンヌを守り、衣食住を保証した。


 子供のいない独身女性だったから、実の娘を授かったかのようにジャンヌを手元に置いて可愛がった。


 穏やかな暮らしぶりを伝え聞いて、いっそのこと、聖女信者たちの期待や戦争のプレッシャーから離れて、リュクサンブール家で人質として過ごした方がジャンヌにとって幸福かもしれないと思っていた矢先——、名付け親の訃報がもたらされ、ジャンヌの運命は再び悪い方向へ流れ始めた。


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