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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十章〈聖女の受難〉編

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10.10 コンピエーニュ包囲戦(3)ジャンヌの取扱説明書

 読者諸氏の時代にありがちな「ジャンヌ・ダルクがしたことは絶対に正しい」と思い込んでいると気づきにくいが、冷静に考えてみてほしい。


 パリ包囲戦のあと、ジャンヌ・ラ・ピュセルはフランス軍の指揮権を剥奪されていた。

 にもかかわらず、独断で300〜400人もの武装兵を動員して、ブルゴーニュ公の支配地域に越境、侵入した。これだけでも重大な軍規違反だ。


 しかも、直属の主君であるブルゴーニュ公にさからっているという意味では「コンピエーニュの反乱」に、外部勢力が加担しに行ったのである。


 どこの国、どんな時代であろうと、間違いなく重大な外交問題を引き起こす。


 ジャンヌの声が「前進」を命じるほど、内乱は激しさを増し、和平は遠のく。

 無垢な瞳で見つめながら「優しい王太子さま、優しい王さま」と慕っていながら、ジャンヌが私の意思を尊重することはない。今となってはフランスに混乱をもたらす元凶だ。


 おそらくジャンヌは自覚してないだろうが、ラ・トレモイユのように「王を思いのままにする権力」におぼれかけている。その欲望を「神の声」にすり替えて正当化してしまうから、なおさらタチが悪い。


 ジャンヌはまっすぐな性格だが、言い換えれば「視野が狭い」のだ。


 私には神の声は聞こえない。

 だが、私から見た「あの子の前進する先」に明るい光は感じられない。

 立ち止まって考えたり、来た道を振り返って戻ったり——、そんなことは少しも考えない。手を差し伸べてつかまえようとしても、すでにジャンヌは私を見てなどいなかった。ジャンヌが向かう先に薄暗い宵闇がせまっている。もう手が届かないし、もうすぐ真っ暗になって見えなくなってしまうだろう。


 私の不安をよそに、ラ・トレモイユはやけにご機嫌だった。


「神はフランスを救うためにあの少女を遣わした。そう言われても、私は到底信じられませんでしたが……」


 厭戦的で狡猾なラ・トレモイユと、好戦的で純粋無垢なジャンヌは、ランス行軍とパリ包囲戦のことで何度か対立し、お互いに疎ましく思っていたようだが、コンピエーニュへの旅立ちは都合が良かったらしい。


「今なら信じられます。今回のやらかしは、間違いなくフランスのためになる!」


 ラ・トレモイユの考えはこうだ。


 フランス軍を称するジャンヌがコンピエーニュに向かったおかげで、町の「援軍要請」に応えたと見なされ、私たちは義務を果たしたことになる。


 その一方で、ジャンヌが王の許可なく無断で軍を動員したおかげで、ブルゴーニュ公に責められたときに、私たちは言い訳をすることができる。シャルル七世はブルゴーニュ支配地域の内紛に介入していない、ジャンヌが勝手にやったことだと言い逃れできる。


「神に遣わされた者だとすれば、私たちに制御も理解もできないのは致し方ありません。こちらは羊飼いになったつもりで、あの子羊を放牧させておけばよろしい。それがもっとも理にかなった、あの少女の『取り扱い方法』でしょう」


 ジャンヌは制御も理解もできない。まさしくその通りだ。

 しかし私は、もし子羊が迷子になっているなら、探し出して迎えにいくのが羊飼いの務めなのではないかとも思う。


 明るい方へ、明るい方へ——

 もし、まだ間に合うならば戻ってくるんだ。取り返しがつかなくなる前に!



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