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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十章〈聖女の受難〉編

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10.9 コンピエーニュ包囲戦(2)ジャンヌの旅立ち

 コンピエーニュの町から援軍要請を受けて、宮廷は緊急軍事会議をひらいた……が、士気が上がるどころか、剣呑な雰囲気が立ち込めている。


「愚かなことをなさったものです」


 大侍従ジョルジュ・ド・ラ・トレモイユは苛立ちを隠そうともしない。

 リッシュモンとはまた違う、宮廷の支配者たらんとする人間特有の傲慢な態度だ。私が国王でなければ大勢の前で吊し上げて、罵倒しそうな勢いだ。


「ご存知の通り、コンピエーニュの町はブルゴーニュの支配地域です。陛下が首を突っ込むのは越権行為であり、このことが知られれば間違いなくブルゴーニュ公は機嫌を損ねます。陛下が先走ったおかげで、和平はますます遠のくでしょう。ご自分のなさったことの影響をおわかりで?」


 一理あるが、私にも言い分はある。


「……密書の意味、わかってるのか?」


 あれは公式文書ではない。

 直臣ではないが信頼のおける《《特別な使者》》を派遣し——私の場合はベルトラン・ボーヴォーがそういう役目を請け負っている——、相手が読んだらすぐに燃やして証拠を隠滅するようにしている。


 密書をやり取りする時の常識だ。

 誰かに見られて困るものを残すようなヘマはしない。


 ただ、政治的には、ラ・トレモイユの言い分が正しいと私も思う。


 コンピエーニュの町とブルゴーニュ公の臣従関係がどうなろうと、本来、私たちには関わりのないことだ。情報収集にとどめ、勝ち筋が見えるまでは介入しない。何も言わず、何も知らないふりをするのがもっとも賢い。


 内輪揉めで自滅して、弱ったところで攻め込む。

 実際、百年戦争を再開したイングランド王ヘンリー五世はそのようにしてフランス侵略を成し遂げた。アジャンクールで屍の上を歩いた賢王だ。


 私は愚王で、ヘンリー五世のような狡猾な賢さは持ち合わせていない。

 屍の上を歩くより、死者のために祈る方が性に合っている。

 分け前を増やす算段を考えるより、殺したり殺されたり殺させたりしないように知恵をしぼり出す。


 その結果、私は「戦争を避けるためにブルゴーニュ公に従うように」とすすめた。コンピエーニュ側が話を聞き入れていれば丸くおさまっただろう。

 私にはブルゴーニュ公の権利を侵害する気はないし、ブルゴーニュ公だって私の言い分を聞けばきっと納得すると思う。


 もし、私の警告が聞き入れられて、コンピエーニュ包囲戦の危機を止めることができたなら、ブルゴーニュと再び和平のとっかかりになる可能性だってあり得たのだ。


 しかし、私の目論みは外れた。

 コンピエーニュに援軍を送ればブルゴーニュ公と戦うことになり、援軍を送らなければ町に恨まれるだろう。


 結果的に、難しい局面を招いてしまった。

 ラ・トレモイユが苛立ち、宮廷の雰囲気が悪いのはそのせいだ。


「援軍は送りません」


 ラ・トレモイユはきっぱりと宣言した。

 密書を送らなければ頼られることもなかったのに、今となっては「知らぬ存ぜぬ」は通用しない。援軍を送っても送らなくても、どっちに転んでもこちらが割りを食う。


 ラ・トレモイユは金のかからない方針、つまり「援軍を派遣しない」を選択した。軍資金がないのは事実である。


「よろしいですね?」

「もう遅い」

「陛下!」


 ついに、ラ・トレモイユが切れた。

 制御できない王にしびれを切らしたのだろう。私も同じ気持ちだ。


「私の意志ではない。もう手遅れだ……」


 私に何の相談もなく、ジャンヌ・ラ・ピュセルは行ってしまった。

 コンピエーニュ市民の抵抗の意志に共感し、「優しい王様を慕う仲間と戦ってきます」と言い残して、敵地まっただ中の包囲戦に旅立ってしまったのだ。


 ラ・トレモイユが私を制御できないように、私もまたジャンヌを制御できないことに苛立ちと大きな不安を感じていた。


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