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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第十章〈聖女の受難〉編

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10.2 モンテピヨワの戦い(1)接近

 オルレアン包囲戦のあと「ランスの聖別式」を目標に進んできたが、それが叶った今、次の目標について宮廷では意見が分かれた。


 ジャンヌをはじめとする主戦派は、聖別式の勢いに乗じてパリへ進軍することを、ラ・トレモイユなど厭戦派は帰還することを主張した。


「軽率すぎる」


 私はもともと厭戦的な性格だ。しかし、やむを得ず戦うこともある。

 オルレアン包囲戦は防衛のための戦いだった。ヴェルヌイユの戦いはメーヌを侵略されたためで、モン・サンミシェルとその周辺の戦いもイングランド支配地域との境界線を死守するために戦い続けた。

 

「私は侵略者にはなりたくない。今いる場所を守ることができればそれで……」

「何を言ってるんですか」


 ジャンヌの無垢な瞳が私を覗きこむ。


「パリはフランス王の居場所ですよ。昔からずっとね」


 王が戦いを仕掛けるときには大義を掲げて、筋を通すことが重要だ。

 奪われた都を取り戻す。だからパリ包囲は侵略ではない——確かに理屈が通る。


「しかし、パリ進軍はこれまで計画になかっただろう」

「大胆に攻撃したら、パリの人たちはびっくりするでしょうね!」

「戦略なくして戦術なし。無謀と大胆さは違うんだ。わかるかい?」


 ジャンヌは不服そうに唇を尖らせる。


「むつかしい話はわかんないです」

「リスクを考えずに行動するのが『無謀』で、リスクを分かった上で行動するのが『大胆』だ。パリ進軍はこれまでの計画になかった。これは無謀というものだ」


 そもそも、オルレアン包囲戦の戦費もあやういのに、パリ包囲戦の軍資金をどこから調達するというのだ。


「王様はまだあたしを疑っているんですね……」

「そうじゃない」


 ジャンヌの進言を受け入れないからと言って、敵対しているわけじゃない。

 私は優しく言い聞かせた。


「本気で仕掛けるなら、方針を定めて戦略を立てなければならない。必要な戦力はどのくらいで、兵たちの食料と武器弾薬を用意して……、戦う前にやっておくことが山のようにある。パリ攻略となれば、数年がかりになるだろう」

「やさしい王様、眉間にしわができてますよ」


 そう指摘されて、眉根をこすりしわをのばす。

 心外だが、少しリッシュモンに似てきたかもしれない。


「そんなに悩まなくても大丈夫ですよ。神様が助けてくださいますから」

「だといいけどね」

「ほら、やっぱり疑ってる!」

「怒るな怒るな。王というのはそういう性分なんだ」


 ジャンヌは成功体験の積み重ねで、自分の思いつきをまったく疑わない。

 何か大きな失敗がなければ、改めることはないだろう。


 なお、戯れ合うような対話に悪意も敵意もないのだが、聖女の信者はあまり快く思っていなかったようだ。


 結局、私たちはパリに向かうこともシノンに戻ることもしないで、のらりくらりとランス周辺を行軍していた。無謀を通り越して無防備に見えるだろうが、考えなしの行動ではない。聖別式に来たブルゴーニュ公の使者と「15日間の休戦」を締結、さらに……秘密裏にパリを明け渡すための交渉を持ちかけた。戦わずに奪還できるなら、それに越したことはない。


 この調略に、ブルゴーニュ公が応じる可能性は低い。無怖公殺害のわだかまりはまだ解消されていないだろう。だが、私の聖別式を祝福したということは、和解の糸口がないわけじゃない。


 少なくとも、ランス周辺——いままで来れなかった敵地の情報を調べるなら、この休戦期間は絶好のチャンスだ。存分に活用させてもらおう。





 8月4日、休戦期限が過ぎてすぐ、ベッドフォード公率いるイングランド軍が大挙してパリを出発したとの知らせが入った。7日にはパリから北へ40マイル(約64キロ)離れた3つの森が交差する要衝サンリスの町まで進軍してきた。


「やっと来たか」


 前に、トロワの町が「シャルル七世の聖別式を阻止する」ために援軍を要請し、ロンドンから呼びつけた軍が今頃になって現れたのである。


 行動が遅すぎるくらいだが、もしかしたらベッドフォード公はジャンヌと同じく、私が聖別式の勢いに乗じてパリに攻め込むと考えて、迎撃しようと待ち構えていたのかもしれない。


 内心で、「パリに直進しなくて助かった……」と安堵する。


 もし、ベッドフォード公が休戦期限が過ぎるのを見計らって仕掛けてきたのだとしたら、ブルゴーニュ公の出方が気になるところだ。

 今のところ、休戦と同時に申し込んだ「秘密の交渉」に進展は見られない。

 ブルゴーニュ公の真意はともかく、少なくとも公には、イングランドとブルゴーニュは依然として同盟関係を維持している。ベッドフォード公はフランス軍と一戦交えるために同盟軍の参戦を要請しているはずだ。


「王様、今度こそ戦いましょう!」


 ジャンヌが白い軍旗を掲げながら、鼻息荒く飛び込んできた。

 私も再び甲冑を身につけ、サーコートとマントを翻しながら軍馬にまたがった。


「もちろんだとも」


 ブルゴーニュ公が参戦する前に、ベッドフォード公とイングランド軍の戦意をくじく必要がある。


 フランス王家の青い旗のもと、デュノワとブサック元帥、アランソン公やラ・イルなどいつもの顔ぶれに加えて、義弟のルネ・ダンジューが「共に行きます」と言ってロレーヌ軍を連れてきた。頼もしい限りだ。


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