勝利王の書斎12:笑えば治る!
第一章から第二章へ——。
《《勝利王の書斎》》は、歴史小説の幕間にひらかれる。
こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。
私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。
生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。
ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。
亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。
作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、《《歴史小説のふりをした私小説》》と心得ていただきたい。
便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。
作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。
*
少年期編から恒例となっている、各章冒頭を飾るフランスの慣用句シリーズ。
今回は……。
"Qui rit guérit."(キリギリ)
直訳すると、「笑えば治る!」
戦争と内乱ばかりの狂った時代に生まれて、自分の力ではどうしようもない運命に翻弄されながら、それでも腐らずに生きてゆく。
悩み多きフランス王にぴったりな慣用句だと思わないか?
幸福と不幸は、自分の心の持ちようで決まる。
多少のしんどいことは、笑ってやり過ごしているうちに解決する。
止まない雨はないといったニュアンスだ。
だが、笑っているだけでは済まないこともある。
人の生死のように、治ることのない不可逆な不幸に直面したときは、どうしようもなくつらい。
さて、時間が来たようだ。
これより、青年期編・第二章〈モン・サン=ミシェルの戦い〉編を始める。





