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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第九章〈二度目の戴冠式〉編

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9.12 トロワ包囲戦(7)ルネ・ダンジューの手紙

 司教館の貴賓室で武装を解き、やっと人心地がついた。

 全身を覆うプレートアーマーは滑らかで、軋みも引っかかりもないが、くつろぐときはシンプルな軽装が一番だ。


「やれやれだな」


 砲撃の音につられて北西の城壁に集まっていたイングランドの駐屯軍は、急転直下の事態に驚いていたが、トロワ市民の意思を尊重して町を明け渡すことで合意した。


 私たちが南西の門から入城して町を凱旋しているころ、セーヌ川に通じる北東の城門ではイングランド軍が退却の準備に追われていた。


 両軍ともに戦わない、奪わない。

 無血開城を決めたが、合意事項が実際に完了するまで時間がかかる。

 その間に、約束を反故にされたり、想定外の問題が起きないとは限らない。


 念のため、見張りと視察を兼ねて、重臣と軍幹部たちは町中に出払っている。


 紳士的に行動し、必要な物資があれば対価を払うように厳命している。権力を振りかざす悪徳貴族は嫌われるが、気前のいい貴族は好かれるものだ。


 トロワ市民は私を受け入れたが、疑念や悪印象が完全になくなったわけではない。滞在期間中にできるだけ好印象を残しておきたいから、兵士たちが町中で愛想を振りまくのも任務のひとつだ。


 おかげで、私の周りには最低限の護衛しか残っていない。


 開門・降伏したと見せかけて、実はトロワとイングランドは陰謀を企んでいて、毒を盛られたり寝込みを襲われたりするかもしれないが、キリがないので考えるのをやめた。


「陛下、失礼します」


 大侍従のラ・トレモイユは、トロワでの安全を確認すると再び側近として私のそばに控えるようになった。


「ランスから使者が来ましたがお目にかかりますか」

「大司教から?」

「いえ、ロレーヌ公の配下のようです」


 ランスはこの行軍の目的地で、歴代フランス王が戴冠式をおこなってきた大聖堂がある。包囲戦のさなか、トロワはランスに援軍を要請していたようだし、私からも先触れの使者を送っているから、ランス側もこちらの動向をある程度把握しているはずだ。


 なお、ランスの町は敵方の支配下に置かれているが、大司教は父王シャルル六世が崩御した直後、ランスへ行けない私のためにブールジュの大聖堂までやってきて戴冠式を挙行してくれた。


「会おう」

「よろしいのですか」


 ランスの大司教は、英仏の勢力争いとは関係なくずっと私の支持者だった。

 その一方で、ロレーヌ公は昔からブルゴーニュ派の重鎮だったから、敵対勢力とみなされている。


「心配無用だ。ロレーヌ公はとっくに隠居して、今は娘婿のルネ・ダンジューが跡を継いでいるからね」


 予想通り、ロレーヌ公の使者はルネからの手紙を差し出した。


「ルネ・ダンジューは私の義弟だ。元気にしている?」

「はっ、主人はすこぶる健やかです。陛下がついにランスで戴冠式を挙行すると知り、たいそう喜んでおります」


 あの小さかったルネも、もう二十歳だ。

 戴冠式に参列するためにロレーヌ軍を率いて早くもランスに到着し、再会を待ちきれずに使者を送ってきたというわけだ。


「あはは、せっかちな子だなあ」


「主人は陛下の義弟で、幼少の頃から顔なじみですが、成人を機にあらためて臣従儀礼を結びたいと申しております」


「もちろん、私に異存はない。ルネは昔から私を慕ってくれていたからね。だが、ロレーヌ軍まで味方になるならこれほど心強いことはないよ」


 ブルゴーニュ派の重鎮と目されていたロレーヌ軍が、代替わりとともに派閥を鞍替えし、シャルル七世の戴冠式に参列して祝福した上、臣従関係になることは、大きな情勢変化のひとつだった。


 トロワの無血開城に続いて、ルネ・ダンジューからの祝福の手紙だけでも十分嬉しいのに、さらにロレーヌ軍の調略成功というおまけ付き。ランスを目前にして幸先がいいことばかりで、少し怖いくらいだ。


「使者の務め、大義であった。私も再会を心待ちにしているとルネに伝えてほしい」

「はっ、仰せのままに」


 いい知らせが続けざまに舞い込んできたのも束の間——。

 ロレーヌの使者と入れ違いで、ラ・トレモイユが血相を変えたアランソン公を連れてきた。


「陛下ぁ! 一大事です!!」


 ジャンヌ・ラ・ピュセルが、町外れで退却準備中のイングランド兵にいちゃもんをつけて一触即発の状態になっているという。



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