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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第九章〈二度目の戴冠式〉編

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9.6 トロワ包囲戦(1)

「頭が痛い……」


 朝、デュノワが起こしに来たので、昔を懐かしむような甘えた気持ちでつぶやいたら、不穏な空気に包まれた。


「まさか毒を盛られたんじゃ……」

「二日酔いだよ!」


 デュノワは「敵地にいる」と認識しているので警戒しているのだ。

 前夜の晩餐も、失礼にならない程度に手をつけただけで、空腹を満たすほど食べてなかった。足りない分は、自前の兵站でまかなったようだ。


「ラ・トレモイユは?」

「大侍従は他の連中と打ち合わせ中です」


 オセールの町で大金を献上されたことに味を占めて、この先の町でも戦闘を回避する代わりに献上品を要求する方針をやろうとしている。戦闘回避は望むところだが、民衆を虐げるようなやり方は考えものだ。


 そもそも、王の身の回りの世話をするのが大侍従の務めなのに、近頃のラ・トレモイユは政治や軍のことに口を出しすぎている。


 とはいえ、幼なじみのデュノワが大侍従の代行をしてくれるのは、個人的に大歓迎だ。


 朝の支度をしながら、きょうの行軍についてデュノワと打ち合わせをする。


「王冠つけたくないな……」

「確かに。敵地を行軍中に『王が誰なのか』がひと目でわかる状態は良くないですね」


 二日酔いで頭が痛いから、重いかぶり物をしたくなかったのだが。

 デュノワは合理的な理由で納得してくれた。


「ジャンヌはどうしている?」

「ゆうべは教会で祈りを捧げて、そのまま修道女たちと就寝したようです」

「軍隊は男ばかりで気が休まらないだろうから、ゆっくりできてよかった」

「それが……」


 夜明けとともに、ジャンヌは軍隊の宿舎を訪れてアランソン公を叩き起こし、馬に騎乗して郊外へ出かけていった。


「さっき、豆を収穫してきたと報告がありました。兵站の足しにしてほしいと」

「あー、例の豆か」

「出発は今か今かと待ってますよ」

「若い子は元気だなぁ」


 日が高くなってしまったが、その日のうちに行軍を再開した。

 トロワの町まで進むには丸一日かかるため、王の寝坊で出遅れたのは失敗だと思われるだろうがこれでいい。ラ・トレモイユの意のままにやらせる気はない。のらりくらりと出し抜いてやる。


 7月4日の夕方、サン・ファルという村に着いた。

 トロワまであと4時間ほどの距離にある村で、ここには使われていない城砦があるとサン・フロランタンで教えてもらった。


 トロワの前まで進軍すれば、町の住民は包囲されていると感じて城門を閉めるだろう。ラ・トレモイユはまた金品を要求するつもり——おそらくすでに水面下で交渉している——だろうが、トロワの町はあの「トロワ条約」を調印した地であり、そう簡単に屈するとは思えない。


 目的地ランスに至るまで、ブルゴーニュ派が駐屯する町17ヶ所の中で、戦闘に発展する可能性がもっとも高い。町を取り囲めば包囲戦が勃発しかねない。


 野戦と違って、包囲戦は数ヶ月から年単位かかる長期戦だ。

 今のところ、ブルゴーニュは無反応だが、イングランドのベッドフォード公は援軍を要請している。ランスまでの途上で、時間を無駄に費やすことはできない。


 トロワで抵抗された場合、引き返すには進軍しすぎている。

 開門を諦めて通り過ぎた場合、後ろから攻撃されるかもしれず、トロワとランスの間で挟撃されるという最悪な事態もあり得た。


 そこで、サン・ファル村の砦を拠点にして、トロワと距離を保ちながら交渉し、「トロワの方から開門して私たちを出迎える」という体裁を(つくろ)えないかと考えた。


 近隣の町々は、情報交換して協力し合っているという。

 サン・フロランタンの町は、勇気を出して私を迎え入れたのだろうが、何の問題もなかった。楽しく食卓を囲み、政治や商売について有意義な話し合いをした。イングランドのベッドフォード公に不満があることもわかった。他の町々の住民感情もそれほど変わらないと思う。


 廃嫡された王太子は敵ではないと知らしめるには、少しだけ時間が必要だ。


「王太子さまー、ここにも豆がありましたよー!」


 砦で寝泊まりできるように準備している間、さっそくジャンヌは村を散策して、修道士リシャールがフランス各地で撒いている豆の痕跡を見つけてきた。


「では、今夜の晩餐はおなかに優しい豆スープだな」

「はい!」


 トロワの町はかねてより「反シャルル七世」が根強いといわれるが、声なき支援者は確かにいる。私はジャンヌと顔を見合わせて、にっかりと笑い合った。


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