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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編

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8.13 王からの贈り物(1)刺草織り

 シャルル七世とジャンヌ・ラ・ピュセルが戴冠式のことで仲違いした——という噂が流れると、ジャンヌを慕う信者たちは私に非難のまなざしを向けた。

 その一方で、大侍従ラ・トレモイユとその配下の派閥は、仲違いの詳細を知ると「大元帥に復権の見込みなし」と考えて、大いに喜んだ。


 噂話には尾ひれがつきもの。

 断片的な情報を、自分勝手に都合よく解釈している。


 私とジャンヌは「リッシュモンを戴冠式に呼ぶか否か」で意見が分かれたが、それ以外はいままでと何ら変わりないのに。


 オルレアン包囲戦に勝利した褒美として、ジャンヌに刺草(いらくさ)織りの布地を贈った。アザミの茎の繊維を紡いで織った厚みのある布で、漂白すると絹のような光沢が出る。


 オルレアンの職人は「町を救った恩人ジャンヌへの贈り物」を依頼されたと知ると、丹念かつ濃厚な染色と、技巧を凝らした刺繍を施してくれた。一見すると鮮やかな緑色に見えるが、角度によっては鳶色がかった枯葉色にも見えるのだ。


 最高級の絹織物ではなく、絹まがいの刺草(いらくさ)織りを選んだのは、ケチって格下げした訳ではない。


「山育ちのジャンヌには、素材も色合いもこちらの方が断然似合うと思ったんだ」


 とはいえ、絹織物を希望するなら変更しようと考えていたが、ジャンヌは首を横に振り「これがいいです」と言い張った。


「すぐに服を新調して、ランスの戴冠式で着ます!」


 はじめ、ジャンヌは自分で縫うつもりだったが、間もなくランスに向けて行軍するのに、縫い物をしている時間はなさそうだ。戴冠式に間に合わせるなら、採寸だけ済ませて職人に依頼するしかない。


 ジャンヌはそうすると言ったが、私は少し考えて「せっかくだからドレスを作ってはどうか」と提案した。


「シノンで初めて会った時のことを覚えている?」

「もちろんです!」

「あの日のジャンヌは、私をランスで戴冠させたら故郷へ帰ると言っていたね」

「まだお別れしませんよ。パリ奪還までお供しますからね!」


 ジャンヌのひたむきな好意はありがたいが、ひとつ気になることがあった。

 調査によると、ジャンヌは故郷の裁判所から出頭命令が下されている。

 婚約者が、結婚の履行を訴えているらしい。


「婚約者が心配して、ジャンヌを連れ戻そうとしているね?」

「その件はもう話がついているから気にしないでください」

「そうはいかない。ジャンヌひとりの問題じゃない。故郷で待つ婚約者の気持ちも考えなくては」

「あたしなりに色々考えてますよ。今は王太子さまの気持ちを知りたいです」

「なあ、ジャンヌ、私はそんなに頼りないか……? まあ、確かに頼れる王ではないが、少女を身代わりにいつまでも戦わせるほどおちぶれてないつもりだ」

「あたしの《《声》》は『パリ奪還までやる』と誓いました。今さら変えることはできないです」


 当初の目的は「ランスで戴冠式」だったのに、いつのまにか「パリ奪還」まで自分の使命だと思い込んでいる。信者たちの期待に応えたいのだろう。ジャンヌの気持ちはわからなくもないが、私はジャンヌの頑なな態度が少し気がかりだった。


「せめて一度帰郷してはどうだ? 婚約者も安心するだろうし、何なら結婚式をあげてくるといい。……そうだ、刺草(いらくさ)織りの婚礼衣装を夫婦揃いで仕立てるのも良さそうだ」


 ジャンヌが、私とリッシュモンの関係を詮索して仲を取り持とうとしたように、私はジャンヌと婚約者の仲を取り持とうかと考え始めていた。


「いいんです。新しい服は、王太子さまに見せたいから」


 後から思い返すと、いつも前向きすぎるほどのあのジャンヌがめずらしく歯切れが悪い。その理由まで、私の考えが及ぶことはなかった。


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