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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編

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8.11 ジャンヌとリッシュモン大元帥(4)ダビデとヨナタン

「知ってますか? 王太子さまは『予算が足りない』と言いながら、いつも余分に食料を送ってくれるんですよ。優しいですよね! ……あ、この干し肉もいけますよ。どうぞ!」


 遠くで、教会の鐘が鳴っている。

 祈りの時間を知らせる大きな鐘を1日3回、時間の目安となる小さな鐘を30分ごとに鳴らす決まりだ。大きな都市では時計が普及し始めていた。


「兵站が足りているなら、なおさら略奪はいけない」

「そうでした」


 悪さを咎められた子供みたいに、ばつが悪そうな照れ笑いを浮かべながら、ジャンヌは自分の頬を軽くはたいた。


「さっき、みんなと一緒に教会でお祈りして神様に罪を告白しました。つかまえたイングランド兵はむやみに傷つけないで丁重に幽閉してます。大丈夫ですよ、過ちは繰り返しませんから」


 鐘の音が消えて、ふたたび静寂に包まれる。しかし、松明の光は健在だ。


「お嬢さんは、一応『聖女』を名乗っている身だろう?」

「あなたは大元帥だそうですね。二番目に偉い人だと教えてもらいました」

「さっきの告白を聞いて、私を咎めないのか?」

「あなたは王太子さまを愛している。あたしも同じです。何か咎めることでも?」


 遠回しな言い方では真意が伝わらないが、明確に言葉にすることは憚られる。

 じれったい思いで、この話を打ち切るか、核心に迫る告白をするか迷った。リッシュモンは寡黙で抑制的な性格だっただから、放っておけばこれ以上話さなかっただろう。


「女性を愛するよりも、さらに愛している。そういうことですか?」


 ジャンヌの方から核心に触れた。

 ジャンヌは教会の鐘が好きで、あの音を聞くと頭が冴え、心が清らかになると言う。この時も直観で気づいてしまったのだろう。


「あたしは一応『聖女』ですからね。お望み通り、聖女らしい話をしましょう。サムエル記のダビデとヨナタンを知ってますか?」


 かいつまんで説明しよう。

 旧約聖書『サムエル記』に登場する若き日のダビデと、サウル王の王子ヨナタンは固い友情で結ばれ、お互いを自分自身のように愛するようになった。二人は契りを結び、王子のヨナタンはまとっていた衣服を脱いで羊飼いのダビデに着せ、剣や弓やベルトも与えた。


「ダビデはすべての君主の模範といわれてますよね。そのダビデ自身がヨナタンのことを『あなたの愛はわたしにとって女の愛よりもすばらしかった』と言ってるんですよ。だから、あなたが王太子さまを愛していることは全然問題ないと思います」


 ジャンヌは純粋な気持ちで力説した。

 一般的な教義から外れているが、筋は通っている。

 リッシュモンはしばし物思いに耽っていたが、きまじめな大元帥らしく反証を述べた。


「だが、私の記憶が正しければ、ダビデとヨナタンの物語は悲劇的な結末を迎えるはずだ」


 ヨナタンの父、初代イスラエル王のサウルはダビデを妬んで殺そうとする。

 ヨナタンは父に逆らってダビデを逃すと、滅びゆく父の元に残り、剣の上に身投げして自害する。


「神はサウル王を見放しましたが、ヨナタンのことは悪く言ってませんよ。ヨナタンは愛するダビデを守りながら、同時にサウル王と祖国を見捨てず、自分の意志で殉死した……。ものすごく純粋な人だったのでしょうね」


 ジャンヌは目を閉じ、まぶたの裏に浮かぶ名場面をうっとりと堪能した。


「はぁ……、ため息が出るような美しい愛の物語ですよね。純粋な心と情熱的な勇気を併せ持つ人は、ヨナタンのように命を捧げることを恐れない。あたしもそうありたいです」


 なお、のちにダビデは王になると、ヨナタンの遺児を探し出して「あなたの父ヨナタンのために、わたしはあなたに愛と忠誠を尽くそう」と告げ、父祖の地を継がせている。


「ねえ、大元帥」

「何だ」


「さっき、あなたと初めて会ったとき、王太子さまへの強い愛情と誠実さを感じました。あなたは『正しい人』です。だから、秘めている想いを恥じなくていいと思いますよ」


「私の想いよりも大事なのは陛下の心だ」

「ふふ、そうですね。じゃあ、こういうのはどうですか」


 ジャンヌはいつもの押しの強さを発揮して、「王太子さまと大元帥の仲を取り持ちたい」と申し出た。





 そして、今に至る。


「聞きたかったんです。王太子さまがリッシュモン大元帥をどう思っているのかを!」


 迫り来るジャンヌを、かわし切れるだろうか。


「一体、何のことだ?」

「えぇ〜、ここまで聞いておきながら逃げるのはずるいですよ〜!」


 リッシュモン、いるなら助けてくれ。



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