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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編

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8.10 ジャンヌとリッシュモン大元帥(3)告白

 ジャンヌに「王太子さまのこと、どう思ってるんですか?」と問われたがリッシュモンはそれには答えず、「なぜ、あの方を王太子さまと呼ぶ?」と質問で返した。


「これまでの王様たちと同じようにランスの大聖堂でちゃんと戴冠式をやるまでは《《王太子》》さまです。王太子さまも納得してましたよ」


「あの方を王太子と呼ぶのは敵方の理屈だ。お嬢さんはわざわざ遠方から訪ねてくるほど陛下を慕っているのに矛盾している」


 ジャンヌは「礼儀のことはわからない」と首をすくめた。


「王太子さまと呼ぶからといって、敵とは限りませんよ」


 単純にいえば、フランス中部を横断するロワール川を境にイングランドが北部を、私が南部を統治していた。


「王太子さまのことが好きな人は、フランス北部にもいますよ。生い立ちに同情している人、父から子へ相続するのが道理だと考えてる人。イングランドはずるいと思ってる人……。でもその人たち全員が、王太子さまをフランス王として認めているかといえば微妙なところ。フランス人全員が気兼ねなく、あの人を『王様万歳!』と呼ぶには戴冠式が必要なんです。あたしが聖女になるにはオルレアン勝利が必要だったように、王太子さまも神様に認められた証がいるの!」


 ひとしきり熱弁を振るうと、ジャンヌは革袋のワインをぐびりと飲んだ。


「質問に答えました。今度はあなたの番です」

「……陛下のことは心から敬愛している」

「それだけ?」

「いつも幸福を願っている」

「他には?」


 いかにもリッシュモンらしい簡潔な回答に対して、ジャンヌは間髪入れずに深堀りしてくる。黙っていると、ジャンヌは革袋を差し出しながら、


「のどの潤いが足りないならこれをどうぞ。あたしはたくさん話したんだから、同じ熱量でちゃんと教えてください!」


 ジャンヌは誰が相手であろうと怖いもの知らずで、臆すことがない。

 この夜相手を務めたリッシュモンは、無愛想な強面(こわもて)に見えるが根は優しく、きまじめで律儀な男だった。


「いただこう」

「どうぞ! 王太子さま一押しのポワティエ産ワインですよ」

「見張り番の役目がある。少しだけだ」


 革袋を受け取ると、酔わない程度にぐびぐびとワインを飲み、深いため息をついてから胸の内を語りはじめた。


「まっすぐなのに屈折している。純粋なのに単純ではない。素朴なのに輝いている。優しいのに頑固で、一見冷めているのに深いところで炎が燃えている。矛盾するようだがそういう人だ。……わかりにくいか? ……穏やかでまじめだが、風変わりでミステリアスなところがある。悲惨な生い立ちのせいか、ときどき物憂げな横顔を見せる。隠しているつもりなのだろうが、こちらの胸が張り裂けそうになる。諦観に由来する優しさを、手放しで称賛することはできないが……、そこがあの方の愛おしいところでもある。すべてを捧げると誓ったのだからもっと信頼してほしい」


 いつもの寡黙さが嘘のように一息にしゃべった。

 ジャンヌが相槌を打つ間もなく、溜め込んでいた言葉がさらにこぼれ出る。


「念のために言っておくが、陛下は決して弱い人間ではない。ただの弱者なら、あの方の父君がそうだったように、とっくに正気を失っていてもおかしくないのだ。私が必ず守るから、心の中を聞かせてほしい、素顔を見せてほしい。あの方が何を見て、何を考えているのかを知りたい。もっと近づきたい、触れてみたい……」


「王太子さまのことを愛しているのですね」


 しゃべりすぎたと思ったのか、リッシュモンはごつい手で紅潮した顔を覆い、指の隙間からジャンヌをにらみつけた。


「初めに言ったはずだ。陛下のことは心から《《敬愛している》》と」

「わざわざ言い直さなくても、何が違うんですか」

「陛下をけがす気持ちは微塵もない」

「別にいいじゃないですか」


 重苦しくて暑苦しいリッシュモンとは対照的に、ジャンヌはあっけらかんとしていた。ワインのつまみに干し肉をむさぼりながら、聞いたばかりの告白をじっくり咀嚼した。


「そんなことを言っていいのか? お嬢さんは、一応『聖女』を名乗っている身だろう……?」


 リッシュモンは今しがたの告白よりも、自称・聖女の言動にあきれ果て、得体の知れないものを見るように、引き気味でジャンヌを眺めていた。


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