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7番目のシャルル、聖女と亡霊の声  作者: しんの(C.Clarté)
第八章〈オルレアン包囲戦・終結〉編

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8.4 オルレアン勝利までの12日間(4)

 伝令から「ほぼ勝利」の報告を聞いたときは半信半疑だったが、実際にその知らせがもたらされたとき、オルレアンは本当に勝利していた。


 この日は5月8日の日曜日。

 フランスの守護聖人・大天使ミシェルの祝日だった。


 イングランド軍の残党は、前日明け渡したレ・トゥーレルの城砦はもちろん、それ以外のオルレアンを包囲するために作った急拵えの砦もすべて放棄して、わらわらと郊外に出てきた。


「イングランド軍全軍が、町に対峙して新たな戦列を敷いている!」


 斥候から速報がもたらされると、オルレアン市民の間に緊張が走った。

 ちょうど、ジャンヌは教会で朝の礼拝を受けている最中だった。


「聖女さま、イングランド軍がまた何か企んでるみたいですよ?」


 気を利かせた誰かが、ジャンヌに耳打ちした。


「あの、聖女さま?」

「…………」

「きょうは日曜だから戦いを休むんですか?」

「しー! きょうはミシェル様の祝日なんですから、ミサをしっかり聞かなくちゃだめですよ」


 動じない少女の姿を見て、市民たちはやきもきしつつも共に礼拝に参列した。

 町に立てこもっている市民は知らなかっただろうが、ジャンヌは前日の戦闘で負傷していたから戦える状態ではなかったのも確かだ。





 オルレアンの正面にある大橋の真ん中、レ・トゥーレルの城砦ではフランス軍総司令官のデュノワがイングランド軍の動きを視察していた。


「イングランドめ、めちゃくちゃにしやがって……!」


 大橋も城塞もところどころ崩壊しかけている。不安定な足場に気をつけながら、デュノワはブサック元帥を連れて慎重に最上階へのぼった。


「うわっ、ひどい。あそこに大穴が空いてるじゃん!」

「……謎の狙撃手がやらかした跡ですな」


 大穴のほかに、床に飛び散った黒ずみが目立つ。

 火の不始末か、火薬をこぼした跡か。あるいはイングランド軍の総司令官だったソールズベリー伯が砲撃を受けたときの血痕か。


「逆の立場でも全然おかしくなかったんだよな……」


 敵将の冥福を祈り、二人のフランス軍幹部は胸の前で十字を切った。


「結局、あの砲撃は誰がやったんだ?」

「……存じませぬ」

「本当に? 新型火砲を使える砲手なんて限られると思うんだけどなぁ」

「…………何も言えませぬ」


 10月24日に奪われてから半年余り、レ・トゥーレルの城砦にイングランドの赤い旗が掲げられる屈辱を味わったが、再びフランスの青い旗に差し替えられた。


「少し風通しが良すぎるけど、いい眺めだ」


 最上階からは、オルレアンの町の全貌と城壁外の様子を一望できる。

 イングランド軍の残党は、オルレアンに背を向けて戦列を作っていた。

 退却すると見せかけて反転して攻めてくる可能性もなくはない。デュノワたちはしばらく高みから監視していたが、小一時間もすると、イングランド軍は整然と動き出し、町から遠ざかって行った。


「よし、どうやら俺たちが勝ったみたいだな!」

「……やや、あれは!」


 眼下で城門がひらき、ラ・イルが颯爽と駆け出していくのが見えた。

 信仰心の薄いこの傭兵は「日曜は休む」という原則を無視して、イングランド軍の後を追いかけていった。


「ははは、片足が不自由なのによくやるわ」

「……いいのですか?」

「まあいいさ。放っておいても、あとでザントライユが止めに行くだろうし」


 教会の鐘の音が、戦禍の爪痕が残るオルレアンをやさしく包み込む。

 朝のミサを済ませて、ジャンヌとオルレアン市民が礼拝堂から出てきたとき、もはやイングランド兵は一人残らずいなくなっていた。



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