第5話 眼福と運命の相手
「あ、ありがとうございます……」
胸!
気になって仕方ない!
感謝がかすむ罪悪感!
なるべく目を逸らそう。
「いえいえ。困った時はお互い様です!」
ニコッという笑顔がこれまた至高。
「早いですね。もうここのダンジョンに」
ほとんどの人間が、まだ初心者用ダンジョンにいる。
ということは、彼女は相当なユニークスキルを有していることになる。
「いえ、私は昨日始めたばっかりなんです。元々ダンジョンには強い人が多くって、私、ユニークスキルが弱いのであんまり気乗りしなかったんですが、この前のリセットのおかげで、私でも楽しめるようになったんです!」
あのリセットを喜んでくれる人もいるんだな。
内心で、何だかほっとした気持ちになった。
「えっと……」
「能登です。能登一」
「能登さん、私は木村サヤです」
ぺこりと御辞儀をしてくれた。
胸の谷間が見えてしまう。
「こ、こちらこそよろしく」
あわてて御辞儀を返す。
「能登さんも、私と同じですか?」
「え、ええっと、はい!」
リセットに恨みを持っていない彼女になら喋っても良いかとも思った。
だがわざわざ危険を冒す必要もない。
「じゃあ私と同じですね! 今、レベルは?」
「一応、600です。昔に少しやっていたんですけど、俺もユニークスキルがあれなもんで。それでまた始めたんです」
「そうなんですね。じゃあ先輩だ!」
せん、ぱい……。
その響きが何とも甘美。
中高一貫男子校。
会社に入っても男ばかり。
後輩は全てむさくるしい男。
挨拶も声もすべてだ。
これが本当の、『先輩』コール……。
たまらん。
「いやいやそんな」
「あの、よろしければこのダンジョンを一緒に攻略しませんか?」
それは願ってもない提案。
情報はあっても、レインスライムにあのざまじゃこの先どうあんるか。
「ぜひ! お願いします」
こうして俺は、美少女と共にダンジョンを探索することになった。
「おいくつなんですか?」
「20です。高校でて18から働いてます」
「わっ。同い年です。私も20歳です。今は明城大学に通ってます」
明城ってあのお嬢様学校かよ!
どーりで何というか、品があるというか、ある意味ないというか。
「そう言えばレベルは?」
「今、58です」
「58!? それにしてはお強い」
「私のユニークスキル、『一閃斬り』は、ある程度のレベルの敵は必ず一撃で倒せるんです」
な、なんだそりゃ。
強いじゃねえか。
「ただ、それがレベル依存でしかもボスには効かないので、中々一人では厳しくって。ボスを倒してダンジョンを攻略した時に経験値が入るシステム上、レベル上げも出来ず、友達はたくさんダンジョンを攻略してレベルも上がって、ボス戦で役に立たない私は、一緒に出来なくなってしまったんです」
それは確かに強スキルとは言えないか。
でも待て。ザコ敵相手に手間がかからない。
時間もかからない。
ボスは誰かが戦えばいい。
もしかしてこの子、俺の運命の相手……?
そうして道中、ザコ敵をすべて木村さんに倒してもらうと、あっという間にボスの部屋。
「私、全力でサポートします!」
「道中頼りっきりだったんだ。ボスは任せといて!」
このダンジョンのボスは『砲撃の虎』、遠距離の攻撃が得意な獣だ。
部屋に入ると、翼の生えた虎が襲ってきた。
近接の攻撃パターンか、知ってるぜ。
俺は予備知識を使って攻撃をかわし、剣でカウンターを入れる。
距離を取った敵が翼を広げる。
知ってるぜ、それも。
紫色の球体が翼から練られ、放出される。
だがこれは曲がらない。
横に軽く避けて、追撃。
その後もパターンに従って、ノーダメージでボスを倒した。
「すごいです! 能登さん!」
「えへへ。ありがとう」
思わずにやけてしまう。
《レベルアップ》
脳に声が響く。
《ステータスが上昇しました》
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
能登のと 一はじめ 男 20歳 Lv 600
HP:1816
MP:803
筋力:721
俊敏:642
頑丈:702
魔力:840
スキル
『メイヤ・フレイム』
『レイジ・ライジング』
『加速:風』
『探索:並』
・
・
・
ユニークスキル
『リセット』
『ステータスオールリセット』
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
やっぱり地味。
「やった! 一気に50も上がりました!」
レベル50の子だ。そりゃこのダンジョンを攻略すればそれだけ上がるだろう。
こうして俺達はダンジョンの外に出た。
「今日は、本当にありがとうございました!」
「お礼を言うのはこっちだよ。ありがとう」
「いえ、私なんて。……あの、もし、よければ、明日も一緒に戦ってくれませんか!」
胸の心臓が高鳴る。
告白された気分。
「ぜ、ぜひとも! お願いします!!」
こうして俺と彼女は出会ったのだった。