第2話 世界の変貌への気づき
箸から、玉子焼きが零れ落ちた。
「昨夜、大変なことが起きました! 全冒険者のステータスがLv1の状態に戻ったのです! しかも不思議なことにい、レベル自体はそのままなのです。原因は今だ解明されてはいませんが、専門家によると鶴留豪さんが先週、史上初のLv1兆を超えたことに起因するのではということです」
朝、ぼーーっとテレビを見ながら朝食を取っていると、女性アナウンサーがそんなことを話している。
……え。
ええっと。
どうゆうこと?
チャンネルを変えても、同じ話ばかりをしている。
全員のステータスがリセットされた旨の話が。
つまりーー。
ステータスがオールリセットされたあってこと?
俺以外の全員分?
うっそだぁーーー。
……マジ?
ど、どどど、どうしよう!!!
え、もしかして俺、また何かやっちゃいました? いや洒落じゃなくてやらかしたかこれ!?
どうしよう警察? 警察呼ぶ? もはや俺、犯罪者じゃねえか……。
いやいや、こういう時こそプラスに考えよう。
これが俺に与えられた才能だ。
他人を落して相対的に自分が上がる。
……考えれば考える程クズじゃねえか……。
どうしよう、これ。誰かに言う訳にもいかなねえよなあ。言ったら、どんな仕打ちを受けるか分かったもんじゃない。皆これのために時間と金を費やしている。
今も昔も変わらない世界最大の娯楽だ。
その経済効果は世界の金の流れの20パーセント程をダンジョンが占めていると言われるほどだ。
これはもう、あれしかない。
よーし知らんぷりだ。俺は何も知らないぞ。知らないもんは知らない。
俺はそんな決心をしいて、会社に行く準備をした。いつもの習慣は考えずに行えた。
マジどうしよう。
さっきから『どうしよう』以外の言葉が出てこない。
少し整理しよう。
今、レベル1兆越えの冒険者ですら、ステータスが初期値。
つまり少なくとも今は、俺が世界で一番強いわけだ。
誰よりも。
考えているうちに準備が終わり、会社へ向かった。
歩いている間も、電車に乗っても考え事をしていた。
どうしたらいいんだ。
何をしたらいいんだ。
一体俺は、何をしたいんだ。
そのうち会社に着いていた。
車内は当然、ステータスリセットの件で持ち切りだった。
「先輩、ヤバいことになりましたね」
俺の後輩が跳ぶように駆けてくる。
「みたいだな」
「みたいって、先輩は昨日ダンジョンいかなかったんですか?」
「まあ、ちょっとな」
「俺なんて衝撃でしたよ。いつもは一撃で倒せる敵に、逆に一撃で倒されちゃって」
「そりゃあ驚いたろう」
「でも俺なんてまだマシですよ。冒険者になって月日が浅いですから」
「そう、だな」
俺はその日、会話に深く入ることが出来なかった。受け答えは上っ面だけ。無感情に返答していた。皆は、ショックでこうなったって思ったみたいだけど、本当は違う。
まあ誰も、俺があれを起こしたと考えられるわけはない。
そんなうわの空の状態で仕事を終えて、ダンジョンに行かずにサウナに行った。
会社で悩みがあったり、問題があったりした時は、決まってサウナで考える。
理由は、何となく頭が回る気がするから。
血流が良くなってなんとかかんとか、的な効果を期待している。
蒸し暑い熱風が肌に当たる。
何回浴びても慣れない風だ。
中には常連のおじさんがいる。
めちゃくちゃガタイが良くて筋肉が厚い。刺青がはいっていないのが謎なほどに威圧感がある。
彼は俺が行くといつもいる。
毎日来ているのだろうか。
一方通行の会釈をして、反対の椅子の隅っこに座る。
あー。これからどーしよっかなー。
そりゃあ誰だって世界一の冒険者に憧れる。
理由なんてない。強いて言うならカッコいいから?
でも、いざなってみると微妙だ。
誰にも知られてないからかなあ。
いやそもそも、目標の設定が曖昧なんだよなあ。
世界一の冒険者じゃなくて、世界一の名誉。
あるいは金。
あるいは異性。
あるいは、他の何か。
……うーん。全部!w
全部だなあ。金も欲しいし彼女も欲しいし、てか仕事辞めて寝ててえし。
んじゃまあ、金だな。金が一番分かりやすい。
金を稼げれば地位も名誉も得られて仕事も辞められる。
金を稼ぐことを軸に考えよう。
現状、ダンジョン関連の主な商品は
ポーション
武器
防具
その他便利アイテム
だな。
ダンジョン内で手に入れたアイテムを持ち帰って加工してもらう。
有名企業はいくつもある。有名な冒険者はスポンサーについてもらえる。
ちなみに俺はポーションから装備まで一夜銅で揃えている。
でもって、他の事業は、有名な冒険者のダンジョン攻略をテレビが放映するダンジョンTV、いまはネットもあるから全世界のすげえ冒険者の攻略の様子が見える。これはみんな見てる。見てない奴はヤバい奴って思われるくらいだ。
去年の年末にやったダンジョン攻略RTAなんか、全世界同時生配信で各国の一流冒険者が同じダンジョンの踏破速度を競ったんだよなあ。ありゃあ面白かった。もう敵なんか倒さず風のように進んでいく様は爽快だった。日本の視聴率も80%超えたって聞くしな。
でも俺にそんな優雅なことは出来ない。これは却下。
となるとやっぱり、アイテム系?
でもなあ。ポーションとか、装備素材の貯蔵なんていくらでもありそうだしなあ。
なんかいい手は……。
ぱたっ。
俺はいつの間にか倒れていた。
目が覚めると俺はサウナの外で横たわっていた。
「大丈夫かあんちゃん」