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自由の牢獄:異世界転移

作者: 雄川 入都

こんにちは、よろしくお願いいたします。

誤字脱字チェックしましたが、何かあれば報告くださると助かります。

表現などで問題がありました場合も、ご連絡くださるとありがたいです。


『自由意志なんて幻想だ。我々の意志は我々自身で作り出せるなんてものじゃない』


 俺はこの考え方が好きだ。

 あと少しなのにがんばれなかった。やる気はあるのに始めることすらできなかった。

そんなことないだろうか。俺はある。


 もう少し頑張れば、幾分いいところへ就職できたに違いない。あのとき、自分の気持ちを伝えていれば、また違った関係になったのかもしれない。そうに、違いない。けど、それはできなかった。

 かといって、だからもう頑張らなくていい、だから現状を変えようと思わないというわけじゃない。ただ、計画倒れになったり、どうしてもやりきることができなかったりする。


 とにかく、俺はふとよぎることがあるんだ。そうだな、シャワーを浴びているときがいい。湯船につかるよりもシャワーだ。勢いよく水が床にぶつかって、次々とはじけるような音を立てているとき、自分の体が急に自分のものでなくなったような気がするんだ。腕でも床でもいい、一点をじっと見ていると、自分が消えていくような錯覚を起こす。ただ重い、自分と同じ体重のものが風呂場に落ちている。そして、そんな感覚から現実に戻った時、暗い湿った樹海の中に一人たたき落されたように感じるんだ。大抵、自分より出来の良かった、もしくは魅力的な同僚、先輩、後輩などが次々と現れ数々のエピソードとともに劣等感を刺激していく。


 だから、自由意志なんてなくて、すべてには意味がある、運命だったんだと考える方が少し楽になるんだ。自分で物事を決めてるなんてそんなナンセンスなことはない、と思いたい。俺は失敗する道を、中途半端な努力を、自分で選んだのだろうか。そうであれば、なんだか情けなくなってくる。


 それに、じつはうすうす気づいている。お金、年齢、生まれ、自分の能力はある程度分かってくる。その能力をもとに予想ってある程度たつようになる。なんで、その仕事を選んだのかだって、後付けでいくらでも考えられる。


 ベートーベンはかつて、運命のモチーフについて、尋ねられたとき、あれは運命の扉をたたく

音だと答えたらしい。一生懸命に運命の扉たたく。きっと、次は良い未来と信じて真剣にたたくんだ。俺は共感できる。

 

 ちょうどあんな感じだろうか......


 え、なんで?


「おーい、和樹、時間だぞ、起きろ」


 友人の言葉とドアをたたく音で、出かける約束をしていたことを思い出した。海外に住んでいるせいで、大学卒業以来会っていなかったが、旅行もかねて会うことにしたのだ。昨日、友人と食事の約束だけして別れたのだった。


「はいよー、今行くわ」


 友人がおごってくれるとのことで、大事なものは金庫に入れて、何も持たずに外へでると、彼は興奮した様子で話す


「遅いぞ、今日はさ、おいしい店紹介してやろうと思ってな。

イタリア在住5年の俺が地元民でも知らない場所へ案内してやるぜ」


「5年でそんなにドヤ顔されてもなあ。ま、楽しみだわ。本場の地中海料理って、1回食べてみたかったんだよね。それにこの旅行のために一週間も有給とったんだぜ」


「え、日本の企業って休みとれるのか」


「なんだそれ。働き方なんちゃらとかのおかげっていうか。一応、うん、とれるな」


「すげーな、ホワイトの商社っていいな、お前、結構勝ち組だな」


「まあな、そんなことよりイタリアでどんなことしてんの?」


「そらお前、最高の仕事よ、真実を暴き、それを伝える仕事さ」


「なんだそれ、新聞記者?」


などとくだらない会話をしつつ、市街地の中に入っていくと建物に挟まれたやたら細長い石畳の通路があった。京都にありそうなどと考えながら歩いていると急に、右手に、壁に囲まれているが広めの敷地に出た。そこには白いツタの絡まったお店があった。そのまま、まっすぐいくとまだ細い通路が続いているようであったが、目的のお店はどうやらここのようだ。


 料理の味は申し分なく、お酒も進んだ。なにより友人と話す時間が楽しかった。 


「あ、ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ。どこにあるの?」


「ああ、外だな。入ってきた通路と反対側にもうひとつ通路があるのよ。その通路の途中にあるぞ。左手のドアな。行けばわかるわ」


「おっけー。左ね」


 少し、ぼうっとする頭で先ほど来るときに見えていた通路に入る。道は突き当りになっているらしく、奥のほうにでっかいポリバケツやなんだかよく分からない箱が置いてある。


「これなら、迷わないな。左、左っと」


 しかし、なかなかドアらしきものが見つからない。ちょっと変だなと思いつつも歩いていると右手にドアを見つけた。左じゃないじゃんと思いながらドアを開けトイレをすませた。


 そして戻ろうとしたのだが、どうやら迷子になってしまったみたいだ。一直線のはずななのに、いつまで歩いても店が見えない。相変わらず石畳の通路が続く。ようやく出たと思ったのだが、店がない。そのまま、ふらふら歩いていたのだが、よくわからない。ついにはもと来た道も分からなくなってしまった。


「まずいー、まずいなー」


 酔っているせいかあまり頭が回らない。そうこうするうちに、だんだんと疲れて、不安な気持ちではあるが、寝てしまった。


 朝、目が覚めると、誰かにのぞき込まれている。ラテン系のおっさんだ。すぐに、昨日のことを思い出した。イタリア語を勉強しておけばよかったと後悔したが、英語で話しかけてみる。


「(あの、ここはどこですか)」


 すると、おっさんは怪訝な顔をして、


「何をしゃべってるんだ?外国の人か?」


と日本語で話し始めた。あれと思いつつも、

日本語で話せるのなら幸いだと思い、酔って迷子になってしまったこと、自分のホテルを探していること

を話したがどうも会話がかみ合わない。代わりに役場への道を教えてもらった。


 いわれた通りに歩いている最中に気づいたことがある。全員、日本語?らしき言語でしゃべっている。それ以外はよくわからないが、なんとなく変な感じがしたが、無事役場にたどり着いた。


 役場に入ると、順番待ち用のレシートをもらった。え?そんなものイタリアにあったかな、と感じたが

不安な気持ちを抑えつつ順番を待った。順番が来ると受付のお姉さんに今までのことをすべて伝えた。するとやはり怪訝な顔をして、


「そうですか。少々お待ちください」


とだけ言い残して、引っ込むと数分後に男の人を連れて戻ってきた。

 男は俺にいくつか質問した後、こう尋ねた。


「イトウ様、身分を証明できるものをもっていますか」


「いえ、パスポートなどはすべてホテルにおいてあるんです」


「しかしですね、あなたのおっしゃるホテルなど存在しないですし、分かっていると思いますが、

そもそもここはイタリアという場所ではありません。ですので、その、こちらでは対処しかねる問題かもしれません」


 これ以上、自分のことを話すのはムダだと判断し、変に怪しまれても困るので、


「そうですか、ありがとうございました。失礼いたします」


と答えて、会話を切り上げた。

 重い足取りで外へ出ると目の前に公園があったことに気が付いた。憂鬱な気分で公園のベンチに座った瞬間、俺は完全に何をしたらよいのかわからなくなってしまった。


 家族や友人に心配かけてしまわないか。仕事はどうしよう、まだやることが残っている。行方不明扱いになるのだろうか。というか、この世界はなんなんだ。戸籍はあるのか。難民として扱われるのか。それとも、全然法体系が違う世界なのか。これ以上何も考えることができない。


 何かをしなければならないけどそれもわからない。スマホもない。誰も俺に指示する人はいないし、今まで多少はあった義務もない。しかし誰にも頼ることができない。公的機関もさっきの雰囲気では無理そうだ。


 数分くらい呆然としていたのだが、ふいに理解した。

 それはいまの気分をさらに鬱屈としたものにさせるには十分なことだった。それはかつて手の届かないところにある憧れとして、また、現代では人類に不可欠な要素として求められていた。しかし、それはミロのヴィーナスに腕をつけるようなものだったのかもしれない。そもそも、こんな状況でしか手に入れることができないのだろうか。


 つまり、俺は今日、人生で最も自由になったのだ。

 




読んでいただいてありがとうございました。

文章を書くのはとても難しい作業ですね。連載は難しそうです。

書きたいことは、自由っていいものですけれ、自由に何かをやってみなさいや個人の自由という言葉が無償に怖くなる時がある。そんな気持ちを小説にできればと思っていました。

全然できてねーよという批判にはぐうの音も出ません。( ´∀` )


しかし、異世界と自由って相性が良いような気がしています。陳腐でしょうか?

もしオルテガ・イ・ガゼットやエーリッヒ・フロムが生きていたら、書いてくれたでしょうか(笑)


批判、感想いただけると幸いです。

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