正しいパーティー追放のされ方
ふとした思い付きで描いてみてます。
主人公はちょっぴり合理主義者かもです。
「ジーク。君には今日限りを持ってパーティーから出て行ってもらう!」
その一言に常に喧騒で包まれていた冒険者ギルドが静かになった。
同時にギルド中の視線がその言葉の主のカイトへと注がれる。
ジークこと僕は、一瞬ドッキリか何かと思考を巡らせたけど、幼馴染でもあるカイトがその手のドッキリをしないことは分かっていた。
つまりは、ついさっき彼から発せられた言葉は本気だという事だ。
12歳で共に生まれ育った村を口減らしも兼ねて飛び出して7年。
腕っぷしの強かった彼と体格に恵まれた僕で冒険者として力を合わせて生き抜いていこうと頑張ってきた。
不器用な僕は人の10倍は努力して腕を磨いたし、彼だって相当頑張ってきたはずだ。
その甲斐もあって、今ではBランクパーティーにまでなったし、仲間も増えた。
ゆくゆくはAランクにも成れるだろうと周囲からも注目されている。
そこに来てこの言葉だ。
僕は何かミスを犯したんだろうか。彼やパーティーにとって追い出されないといけない何かをしたんだろうか。
そう考えようとして止めた。
そして一言。
「わかった」
そう言って僕は席を立ち、ギルドの受付へと向かった。
受付にはいつも笑顔で対応してくれるサリーさんが、しかし今日はその笑顔を凍り付かせていた。
「えっと……聞こえていたと思いますが、リーダーによってパーティーを追放されましたので、手続きをお願いします」
「は、はい。えっと、よろしいのですか?」
思わずといった感じで訊ねてくるサリーさんに頷き返す。
「はい」
「分かりました。ではこの書類にサインを」
こういう時にテキパキ仕事をしてくれるのもサリーさんの良いところだ。
僕は差し出された書類にササっとサインをした。
「はい。書けました」
「ありがとうございます。これにてジーク様は『スラッシュ&ガード』から正式に脱退したことになります。
ただ今回のようなケースですと、ジーク様から元パーティーに対して慰謝料などを要求できますが如何いたしますか?」
「不要です。あ、その代わりと言ってはなんですが、向こうからこちらへの請求などもなしでお願いします」
「はい、畏まりました」
席を立ってからこの間3分程度。
手続きを終えた僕はそのまま冒険者ギルドを後に「ちょっと待て!」しようとしたところで呼び止められた。
呼び止めたのはカイトだ。
「えっと、どうかしたか?」
そう首を傾げた僕に信じられないものを見る目を向けてくるカイト。
おかしいな。そんな目を向けられる理由が思い当たらないんだけど。
「いや、普通もっとこうあるだろ?
『ずっと一緒に頑張って来たのにどうして』とか
『僕だって精いっぱいパーティーの役に立って来たのに』とかさ」
「はぁ」
まぁ言いたいことは何となく分かった。でもなぁ。
「カイト。別にさっきの発言は冗談やドッキリじゃなかったんだよな?」
「あ、あぁ。そうだな」
「うん、その言質が取れて良かったよ。
なら言わせてもらうと、こんな公共の場で、酔った勢いでも、魅了の状態異常でもなく、他のパーティーメンバーも居る前での宣言を『やっぱなし』になんて出来ないだろ?
それに『スラッシュ&ガード』のリーダーはカイトだ。
リーダーが宣言したという事実だけで決定事項だと取れるし、他のメンバーから異論が出ない。
ならそこに、どうしてを挟むのは無駄だろ?」
「いや、まぁそうかもしれないけど……」
僕の言葉に二の句が継げなくなるカイト。
しかしそこに割り込むように元パーティーメンバーのナンシーが話しかけてきた。
「ちょっと待ちなさいよ。
あんたタダでパーティーを抜けられると思ってるの?」
「は?」
何を言ってるんだろう彼女は。
ちなみにナンシーは『スラッシュ&ガード』に一番遅く入ってきたメンバーで唯一の女性でマジックアタッカーだ。
普段の冒険では僕たちの後ろから攻撃魔法を放って魔物を攻撃してくれている。
おまけ情報としては身長140センチのEカップだ。巷ではロリ巨乳とか呼ばれるジャンルなんだろう。
男性からの人気は高く、カイト達もどストライクな見た目らしい。
僕の好みからはかけ離れてるけど。
「思ってるも何も、僕は抜けたんじゃなくて追放されたんだよ?」
「そんなことはどうでも良いのよ。
問題は前回の冒険で、あんたのせいで受けた損害をどうするのかって聞いてるのよ」
前回の冒険っていうのは、普通ならAランクパーティーが挑む深層迷宮に挑んで、返り討ちにあって来た事を言ってるんだろう。
その結果、重傷を負った僕は高い治療費と1週間の絶対安静を余儀なくされた。
聞いた話だと僕以外のメンバーも地上に戻った時にはかなりの大けがをしていたそうだ。
なぜ聞いた話かというと、僕はその時しんがりを務めていて、撤退中に魔物を足止めするために一人残ったからだ。
命からがら地上近くまで戻って来た僕は他のパーティーに救助されたお陰で一命を取り留めた。
ただ思い返してみれば、最後に到達した32階層で斥候役のケントが僕の引き留める声を無視して突出して魔物に殺された。あれが多分、戦線崩壊の分岐点だったと思う。
魔物に引き千切られたケントの頭部は僕を飛び越えて後方へ落ちていった。
そのすぐ後に女性の、つまりナンシーの悲鳴が聞こえたかと思うと俺は後ろから魔法で攻撃された。
その時の僕は既に前方から来た魔物たちの攻撃を防いでいた為に避けることも防ぐことも儘ならなかった。
結果として壁役の僕が一時的に機能しなくなり、乱戦状態となってしまった。
あの時、咄嗟にありったけの魔法石を使っていなければ、そのまま全滅していただろう。
僕の出したパーティーに対する損害といえば、高価な魔法石を使い切ってしまったことくらいか?
「えっと、逃げるときに魔法石を使ったのを言ってるのか?」
「違うわよ馬鹿!!
そんなことどうでも良いのよ。
問題は戻ってくる最中に襲われた時に受けた傷の痕が私の肌に残ってしまったの!!
壁役のあんたがしっかり守らなかったせいなのよ!
この責任をどうつけるつもりなの!?」
左腕に出来た傷痕を見せてすごむナンシー。
でもそれってもう僕がしんがりとして離れた後の話だよね?
「どうって言われても、その時僕はその場に居なかったよね?」
「つまり自分の責任を放棄したって事じゃない」
「いや、僕多分その時は32階層でみんなを逃がすために一人で魔物を堰き止めてる最中だったと思うよ?
それしなかったら間違いなくもっと犠牲者が出てただろうし、それ以上を求められても無理だよ」
「無理でも私がピンチなら来るのがあんたの役目なのよ!」
いや、そんな役目は知らない。
それに上の階層なら僕一人でも逃げ切れるくらいの魔物だったはずなんだけど。
カイトや他のメンバーが居れば多少攻撃は受けても、そんな重傷になることは無い気がする。
「あと、傷痕が残ったのは、こう言ったらなんだけど、治癒士の腕が悪かったんじゃない?
僕も今回、傷だらけのぼろ雑巾みたいになってたけど、痕なんて残って無いよ」
「あんたね。言うに事欠いてモーガンの腕のせいにする気?」
「あ、モーガンにやってもらったんだ」
それなら痕くらい残るだろうな。
モーガンっていうのは『スラッシュ&ガード』のヒーラーだ。
彼の回復魔法は一級品だ。僕も何度も治療してもらったから間違いない。
でも残念ながら専門の治癒士ではない。
ヒーラーは冒険者として共に迷宮やクエストに挑む性質上、仲間の傷を癒し戦えるようにすることが第一だ。
そこに傷痕まで消したり肌を綺麗に治したりすることは含まれてはいない。
ちなみにそのモーガンだけど、首から上に傷は見当たらないけど、腕とかは傷痕だらけだ。
普段から自分を後回しにするところがあったし、今回も自分に対しては最低限の治療だけして、皆の傷を治してたんだろうな。
引っ込み思案でおどおどしたところがあるけど良いやつだ。
「僕を治療してくれた治療院で良ければ紹介しようか?
今からでも多分傷痕消してくれると思うよ?」
「そんなお金ある訳ないじゃない。
というか、なんであんただけそんなお金あるのよ!?
まさかパーティーの共有資産に手を出したんだ。そうでしょう!!」
パーティーの共有資産、か。
「そんなの無いよ?
僕の治療費は全額僕のギルドに預けてあったお金で出したし。
それはギルドに入出金履歴を確認してもらえれば嘘じゃないことは分かるよ」
「はぁ!? なら今までの装備代とかポーション代とかはどうしてたのよ」
「消耗品に関しては各自で用意してたし、装備代はその都度、全員から折半だね。
あ、そう言えばナンシーが入ってから今まで装備が壊れたことは無かったか」
「はんっ。それじゃああんたにお金があってカイトくん達にお金がない事はどう説明するの?
普段クエストの達成報告とかはあんたがやってたんだから、報酬を受け取った後に幾らか抜いてたんじゃないの?」
「ん~、ナンシーが入ってからも何度か報酬のやり取りってあったよね?
毎回人数割りで余りはカイトに渡してたし、1度として額が間違ってたことはないよ。
受け取った皆からも間違ってるなんて言われたことなかったし。
ついでに言うと僕は毎回、自分の取り分は一度ギルドに預けてたから、やっぱり入出金履歴を確認すれば分かるよ。
カイト達にお金が無いのは……何かに使ったんだろうな」
「何かって何よ!」
「さぁ。それは本人に聞いてくれ。僕は個人のプライバシーにまで関わる気は無いから」
と言っても、カイトと、今も面倒くさそうに腕を組んでるハンマー使いのグルンはお酒好きだから大半はお酒代になってることが予想できるし、モーガンは毎回自分で使う以上のポーション類を買い込んでは過剰に振る舞ってたからな。
「じゃあ他に無いなら僕はもう行くよ」
「ちょ、まだ話はおわっ……」
まだ何か喚いているナンシーを無視して冒険者ギルドから出た。
さて、これからどうするかな。
あの様子だと次遭った時も絡まれそうだし、まずは別の街に移動するか。
でもその前に知り合いに挨拶してまわるか。
7年も同じ街に居ればそれなりに仲の良い人も出来たし商店街の皆にも一声掛けていくべきだろう。
駆け出しの時はよく残り物とか分けてもらったりお世話になったし。
それが終わった後は、行くなら北の鉱山都市かな。
体力には自信があるし、食いっぱぐれる事は無いだろう。
どうでしょう?
きっぱり追放を受け入れる主人公。
いちゃもんを付けられてもきちんと反論する主人公。
バッサリ会話を断ち切って立ち去る主人公。
7年も一緒に頑張って来たのに、と思わなくもないですが「それを言っちゃあお終いだよ」という言葉はあると思います。
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