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小人の夢

作者: ヂーヨ・P・ラント

とある日の朝、まだ闇の終わらぬ時刻に、蒸気船に揺られて私はデイチッドランド(私の故郷(くに)から少し東に存在する小国だ。もっとも、その私の故郷もそこまで大きくはないのだが。)に向かっていた。


理由は単純である。

かの国にて私が喉から三本の腕が生えるほどに(ちなみに、数日前にストレスからか…間違えて腕型の蔓を生やす種を数個飲み込んでしまったので図らずもその様子がどういうモノかを術を使わずに表すことができた。知り合いの教師に送りつけたところ、あまり気持ち悪い物を送るなという苦情が来た。せっかくあんなに面白いのに、奴にはユーモアが無いのだろうか。)欲しい植物、ザントマン・フラワー(眠りの妖精の砂で育つ植物だ。以下では「対象」と記載する。)を三株譲ってもらえる事になっていたのだ。

それにしても、この蒸気船は遅い。

ナメクジの方がまだ早いのでは無いだろうか。いっそ私が石炭を燃やしに言ってやろうか。

…等とくだらない事を考えつつ、その一端をここに書く事で私は暇を潰していた。

そうこうしているうちに、やっと港が見えた。


港に立つと、私はまず先方が用意すると言っていた案内人を探した。

「ラントさん!こっち!こっちです!」

その声が上がった方を見ると、薄い茶髪の青年が腕を振りつつ小走りでこちら側に来た。

彼は、照れたように頭をかくと、

「いやあ、すみません。船の前に立って待ってたんですけど…その…別の船だった上に人混みに流されてしまって…」

と、言ってきた。

「別に大した事じゃない。何時間も待たされて、『あんたよりいい商談がまとまった。やっぱり帰ってくれ』なんて言われる事もザラにある。」

…少し無愛想になってしまった。言い訳ではあるが、交渉するときくらいしか人と関わらない以上仕方ないだろう。…つくづく自分が嫌になる。

「では、どうぞ。」

私が考え事をしている間に、青年は馬車のドアを開けていた。

「ああ、ありがとう。」

そこから今度は馬車に揺られるが、私は眠ってしまった。

物を書く身として愚行でしかない。

そして昼過ぎに、彼の曾祖父(この家系は、この曾祖父だけが妖精らしい。故に案内人の彼は、妖精的な魔法を使えないという。)の家(豪邸であった。眠りに関する悩みの大きさを表していると推測できる。実際、ザントマンという妖精の役割とは真逆であるが、さっき述べたように私も眠りに関する悩みはある。)に到着した。


先ずは当主に挨拶を行った。(特に面白い事はない普通の挨拶であった。)

その後、譲渡のために説明を行われた。

以下にそれらをまとめる。


【効能】

・成熟した果実は、重度の不眠症を一度で改善するほどの催眠作用を持つ(汁や皮や種などのそれぞれが少しずつ効能が違うらしい)

・花粉や子房、未熟な果実だと微弱な催眠作用を持つ

・花弁、茎、根などは、針先でつついた、程度の量でも人が即死する毒を有する。(神経や血液に関係なく、破壊しつくす作用があるため、細心の注意を払う)

【生態】

・水は数日に一度、片手で持てる分だけ与えれば良い

・ザントマンが眠りへと誘うために用いる砂でのみ栽培が可能

・夜になると花粉を噴き出す

・光を苦手とし、暗いところのみで活性化する

etc.

中々に奇妙な生態である。

そしてその説明が終わると、遂に私の元へ運ばれてきた。

見た目は……どうやらこれには決まった姿はないのかもしれない。

なぜなら少なくとも私の視覚では確認できないのだから。

まあ…魔力の反応が少なからずある以上、持って帰る価値はあるだろう。

そのすぐ後に私は帰路についた。ただ、港に来たときには既に船は行ってしまっていたため、ボロ宿で夜を明かした。


小屋に帰ってきて早々、私は研究机に向かった。

その時、強烈な違和感を覚えた。

昨日は感じていた魔力が薄れていたのだ。

まさかとは思ったが……実体はない。

つまるところ私は騙されていたのだ。

実害こそ無かったが、今ごろやつらは私を笑っているだろう。

まあ、考えてみれば、そもそも私は個人である。

単純な睡眠薬として売るよりも利益が増える可能性を理解していなかったのか、それとも取られると思ったか…

もはや確認の使用もないが残念である。


かくして私の夢は、まるで小人の眠りのように小さい物となった。


そう思っていたが、私が一喜一憂しているところにノックが聞こえた。

出てみると、そこには顔中傷だらけになったあの青年であった。

話を聞いたところ「真面目に学問に打ち込んでる人を騙すのが許せなかった」といって盗み出してきたらしい。

とりあえず薬を塗って包帯で処置しておいた。


それが完治した後、彼が私の助手になりたいと志願してきた。

私は二つ返事で応じた。

今ではいい仲間である。

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