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ウロボロス・パラドクス  作者: ロストチャイルド
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七、片鱗


「美味しかったね。」

キョウとミヤマは金を持っていないので、アイザックにごちそうになって店を出た。


すると前方空高くから一匹の大鷲がこちらの方に向かって真っ直ぐに飛んできた。


アイザックが足を止めてその大鷲を見上げた。


大鷲は三人の頭上まで来ると、そこで8の字を描き出した。

それを見たアイザックは安堵したように

「グロウスタインからの知らせだ。ハナは助かったらしい、もう意識もあるようだ。」

そうキョウに言った。


「よかった!」

ミヤマも嬉しそうに笑った。


よかった、あんな夢を見たもんだから、

もしかしたらだめからもしれないと、覚悟は決めておかなくちゃと思っていたのだ。


はやる気持ちが少し落ち着いた。生きているのなら、

よかった。


「でもまあそれでも早く彼の元に行きたいだろうから必要なものを揃えて少し休んだら出発しようか。」


アイザックはそういうと慣れたようにあちこちで必要なものを買いこみだした。



まずは鞄。例の香木の皮でできた鞄を自分だけでなくキョウとミヤマにも買い与えてくれた。

「噂通り丈夫だねえ、これ水入れても漏れなさそう!木の皮もそうだけど縫合とか、腕がいいんだなあ。それにやっぱり素敵な香りだ!」

アイザックの言葉にかなり気をよくした店主が値を負けてくれた。

きっと彼の言葉が本物だからだ。心の底から思ったことを言っている。そしてそれがよく伝わる。


次に服。アイザックは長い外套を着ていたがその右腕部分と、その下の軍服の右腕部分が溶けてなくなってしまっている。怪しまれないようにするためか、ガンデンに入ってからは破れた部分を無理矢理縛って隠していたのでかなり窮屈そうにしていた。

服屋ではアイザックが自身には少々大きそうな明るい灰黄色のきものと黒い股引きに羽織を選んでいた。しかし着替えて出てきたときにはぴったりと似合っていたので、細身に見えていたが実は体格がいいのだろうとキョウは思った。ゆるい股引きに丈の短いきものをしまいこんでいて、そうやって着る人は初めてだったが、脚が長いので正解だった。

それから新しい外套も買っていた。例の香木でできているらしい。この外套、着心地がいいようで、アイザックはかなり気に入っていた。


それから肉や果物、パンなどの食べ物。それらを買った鞄に次々と放り込んでいく。

「水は買うとなると高いんですねえ。」

最後に水を買いに来たとき、アイザックが言った。

水売りが答える。

「ここは雨も少ないし川も細いのが一本通ってるだけだ。その細い川は街の領主一家が上流で管理してるんだが、これが独り占めでな。神族には川の水を使うことを許可して、人間にはこうして金を取ってるんだ。しかも機嫌を損ねたら川に生活排水を垂れ流すもんだから、そん時は神族ですら水が使えねえんだ。あ、おたくら人間だよな?」


なるほど。


ミヤマがうなづいた。アイザックは黙って聞いている。

「だがな、」

水売りの男が続ける。

「最近、街のはずれ、もっと東の方、それこそ鯉ノ国との国境近くで鯉の神族が一人、タダで水をくれるらしいんだ。俺は人間だけど領主とのコネでこうして領主から水の専売特許もらってんだ。でもそれって神族にも人間にも一線引かれちまうんだ。俺も人間だからよお、こういう仕事して俺だけがましな思いしてんの、街の他の人間に申し訳なくて、最近はその鯉の奴を教えて回ってんだ。水は全然売れねえけど、俺は領主から金もらってるし、水自体減ってねえから領主は俺を怪しみはしねえんだ。」

そう言ってガハハと笑った。


「鯉の神族が?間違いないか?」

アイザックが口を開いた。


「ああ、街の奴に聞いた。一日に渡せる水に限りがあるらしいがな。鯉の神族は水を自由に操れるんだろう?」

男が答えた。



水の代金を支払ってしばらく歩くとアイザックは

「少し気になるんだ。例の鯉の神族のこと。」

そう二人に言った。


「いくら鯉の神族が水に親和性があるとはいえ、毎日そんな大量の水を用意できるなんて相当なものだ。しかも他国なのに金もとらずにそんなことしてるなんて単純に興味があるな。領主の話も含めて気になるからちょっと寄ってもいいかな。すぐ戻るから待っていてくれ。」


「俺らもいく。」

キョウの言葉にアイザックは意外そうな顔をした。

「いいのか?時間がかかってしまうぞ。」


「ハナは助かったんだろ?それともまだ危ないのか?」

キョウはいたって普通の調子で聞く。



「いや、おそらく回復方向に向かっている。でも意外だな、こんな提案しといて言うのもなんだけど、助かったと知っても一刻も早く駆けつけたいだろうと思ったから。」


「生きるか死ぬかの瀬戸際なら話は別だけど、すでに回復傾向にあるのならいつ着いても同じだろう?いつ着いてもちゃんと生きて会えるとわかってる。」


そうだとしても早く会いたいと思わないだろうか。

キョウとハナの関係がいかなるものなのか、アイザックは気になった。



「生きているかどうかが重要なんだ。」

キョウが続けた。



「そう…でもそれにしても君はそんなに僕たちを信じ切ってるの?それはそれで危ないというか警戒心がないというか…心配だよ。」



「信じてても信じてなくても、あなたたちにハナを預けてしまった時点で俺にできることは何もないから。」



「冷静だなあ。」

諦めが早いとでもいうのか。

アイザックはキョウの予想だにしない回答に思わず笑ってしまうのだった。

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