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ウロボロス・パラドクス  作者: ロストチャイルド
1/16

序、

ああ、なんてことだ…


少年は赤く染まった自らの両手を見つめた。

夕陽に照らされてギラつく真紅。ボタボタと滴るそれは地面に触れる頃には灰と化していた。


「ハァ……ハァ……」

息は落ち着くどころかどんどんと荒くなっていく。

両手にべったりついていたはずの血は跡形もなく塵となり風に消えていった。


「ヴッ…!?」

しかし次の瞬間、心臓が握り潰されるように脈打つのを感じた。

…いや、握りつぶされている、何かに。

何かが、いや誰かが、その手でまるでりんごでも握りつぶすかのように心臓を圧迫している。

胸が苦しい……息は吸うことも吐くことも許されず、全身の血は体中を激流のように巡る。眼球が飛び出そうになり、まぶたを閉じることもできない。

何が起こっているのか、心臓に手をやるもそこには何も傷一つとしてない、しかし確かに誰かに心臓を握られているのだ。




死ぬんだ…


少年の頭には確かに死がよぎった。そうだ、当然の報いだろう。全身から心臓の鼓動が聞こえる。もう目は見えない、周囲の音は聞こえない、手足は動かない。彼にできたのはただ鳴り響く鼓動に何もかも委ねることだけだった。


そして少年の世界は暗転した。





あれからどれほどの時が経ったのだろう。少年が目を開けるとあたりは暗闇に包まれていた。

そこで少年が驚いたことは二つあった。

まずは自分が生きていたことに驚きを覚えた。あれは夢だったのか、はたまたここは地獄なのかあの世なのか。混乱とともに恐怖に襲われた彼は再び目を固く閉じると今度はそっとまぶたを開き、倒れていた体を起こして辺りを見回した。


暗闇に目が馴染んで見えてきた周囲はあの時の夕陽が差し込んでいた森の中のままだった。少年は浅く息を吐くと、今度はあの出来事が夢だったのではないかと思えてきた。


次に驚いたのはまさにその瞬間である。意識を手放す前の苦しみは消え、押し潰されそうだった心臓はいつも通りに脈を打っている。


ただ、何かが違う。


少年は胸に手を当て、再度目を閉じてじっと心臓の音に耳を澄ました。



これは……私の心臓だろうか。こんな心臓だっただろうか。自分の心臓よりも遥かに深く重い音が鳴っているように思われる。脈打つ鼓動のスピードも心なしか遅い。その一回一回の心音が体中に染み渡っていく。



誰かの心臓がここにある……


ふわりとよぎったその答えに少年は大きく身震いした。


「お前は、何だ?」

胸を叩きながらつぶやくも、その問いかけは宙に消えていくだけだった。












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