暗闇と光と共有
夜の視点に戻ります
体が動かない……。
小石が池に沈んでいくように夜はゆっくりと暗い意識の奥へと沈んで行く。
確か……盗賊の子を助けようとして…。あの子は無事かな…。いや、リーシアがいる……きっと大丈夫…。
さっきまでの光景がゆっくりと頭の中で流れる。
殺されそうになって、リーシアが助けてくれて、リーシアが怒って、あの子達も心配そうに見てた。
早くみんなの所に戻らないといけないのに……。
なんで体動かないんだろう…それにすごく熱い……。
「…様…ッ!」
「ヨ…………ッ!」
遠くから何かが聞こえる……。声…?
ダメだ…、だんだん声が遠くなっていく…。
考える事は泡のように沈んでいく自分とは逆に上へと消えて行った。
沈んでいく暗闇の奥から殺意、狂気、憎悪、後悔、怨み、軽蔑と言った負の感情が自分の体に流れ込んで来る。
「お前のせいだ。」
「もっと殺したいッ!」
「許さない……。」
「憎い!」
「なんでお前なんかとッ!」
「あなたなんか産まなければ良かった…」
「賎しい身分のくせに!」
そんな感情が入ってくるたびに息が出来なくなりもっと深い所へ沈んでいく…。暗い誰の手も届かない。独りぼっちの虚無へと落ちて行く。
苦しい……。誰か……。
助けなど来ない精神世界の暗闇で苦しくてもがく夜は必死に手を上へとのばした。
視界が霞む……僕どうなるんだろう…。
さっきまで力を入れていた指先から段々と力が抜けている感覚をしり、諦めようとした時ふと誰かに腕を掴まれ沈んできた所を浮上するかのような体感があった。
誰か見知っている。すごく温かいような感覚。
君は……。
視界がぼやけて誰か分からない…。でも僕を気にかけている気がする…。
「ありがとう…」
言葉と同時に夜の意識は水面から勢い良く水飛沫が飛ぶかのように覚醒した。
「ここは……」
意識ははっきりする……。
さっきとは違う体も自由に動かせる。倦怠感も感じない。でもすぐそばにいるはずのリーシア達は見当たらなかった。
「まだ僕は起きてないのか。どこなんだろうここ。」
辺りを見渡しても人は誰ひとりといない。さっきまで沈んでいた池と木々が生い茂っていた。
とりあえず…ここがどこか知らないと…飛べるかな…。
夜は飛行魔法を自身にかけた。
すると段々と空高く登った。
「魔法は使えるのか」
魔法も小さい体になって初めは暴走もしたけど慣れると意外と使えるもんだね…。
高く登り当たりがみわたせるようになって高さを固定した。
これってさっきまで通ってた所の近くじゃないか…?
ここの地形は現実世界で見た地図の地形と酷似していた。
なんでこんなに似てるんだろう…。
そう考えていると遠くで人影が見えた。夜はその人影の元へと向かった。
「男の人だ…」
その男は強靭な肉体をしているが盗賊か冒険者か分からないボロボロの身なりをしていた。その男は悩んでいるような顔をしていた。
不思議に思った夜はその男と話をしたくなって男の元へおりた。
夜に気づいた男は警戒し腰に着けていたボロボロの武器に手を置いた。
「そんな警戒しなくていいよ。安心して僕はここから一歩も動かないから、君と話をしたいんだ。」
「話…?」
男は警戒しながら夜の言葉を聞き返した。
「そう、悩んでるのが気になってね。この世界君以外の生命反応は無さそうだし、君の精神世界なのかなと思って、なんで僕が君の世界に迷い込んだのか。なんで君がそんなに悩んでいるのか気になったんだ。だから君の話が聞いてみたい。興味本位かな。」
そう言って夜は静かにその場に座った。
「……変なやつだなお前。」
しばらく警戒していた男は警戒するのを辞め、少しずつ話した。
「俺は元々傭兵の隊長をしてたんだ。この世界には魔物が寄り付かない安全な森がある事を知ってるか?俺たちはそこに拠点を置いていた…。だが2週間前…変な魔物に襲われてな。その時この左脚を持って行かれたんだ。」
そう言って男は布に覆われていた半透明な左脚を夜に見せた。
「魔物は倒せたが部隊はほぼ全滅した。俺達は仲間を弔って部隊の再構築をした。部隊の隊長として士気をあげる為色々やったんだ。料理が下手なのに仲間の飯を作ったりな。味は不味かったが仲間は笑って食べてたよ。」
そう言いながら男は笑ってた。
「何とか軌道に乗り始めていた矢先、俺達は食べ物を求めて森を探索してたんだ。探索の途中黒い煙を放つ玉を見つけてな。それに触れた瞬間その玉は弾けて中から黒い霧みたいなのが俺にまとわりついた。探索から帰ってきて俺は倒れちまった。隊の士気も落ちちまったんだ。俺があいつらを引っ張っていかなきゃなんねぇのにな。」
男は指を触りながら視線を下へ落とした。
「現実世界の俺はどんどん憔悴していったよ。頬が痩けて魔物に持って行かれた左脚の傷口が酷く化膿して赤黒く腫れ上がってな。起きていても寝ていても憎悪や怨みと言った負の感情が頭の中で響いて深い闇の奥に落ちていくような感覚で寝れなくなった。ここにはそうなってからよく来るようになったんだ。」
負の感情が頭に……。
その症状は先程の夜と同じだった。
魂が穢れていくような感覚。
「それからだ仲間が盗賊のような事をしだしたのは…。」
「盗賊…?」
「あぁ。俺達はここ周辺に暮らしている。近くの街道は隣国から来るやつらが通るそいつらを狙ってるんだろうな…。」
「もしかして…、君たちの仲間に14歳くらいの赤髪の子っている…?」
「ああ。まさか…あったのか…そいつの名前はリシュンって言ってな。……あいつがまだ喃語すら話せない時拾ったんだ。隊全員で育てて来た息子みたいなやつだ。そうか……あいつらが……済まない迷惑をかけた……。」
「大丈夫だよ、僕らに被害はなかったし。」
「そうか。こんなことを聞くのもなんだが、あいつらは無事なのか…?」
夜は少し間を開けて今日の昼に起こった出来事を包み隠さず話した。それを聞いた男は顔に手を当て辛そうに
「そうか……。」と一言呟いた。
しばらくして、「仲間が迷惑をかけた…。リシュンを助けてくれてありがとう…。」と言った。
「隊長さん実は僕もさっき似たような事が起きたんだ。頭の中で負の感情が響いて…。誰かが助けてくれた…。黒い霧……きっとそれは負の感情の塊なんだ……。」
「塊…か…。」
「うん、多分だけど、穢れと邪気が引き起こした症状だと思う…それらは負の感情が源だから……。だから…光魔法を使えば……。何とかなるかもしれない。」
話を聞く限りこの人はいい人なんだ…。僕はこの人を助けてあげたい…。
「俺の仲間にそんな魔法を使えるやつはいない。神殿に行くとしても金も無いしな…体力ももう残ってないんだ。」
そう言って男は諦めたように笑った。悲しそうに笑う男に夜は「僕が行く!僕が隊長さんを助けるよ!光魔法も使えるから!」と、立ち上がって男に言った。
男は夜の言葉に笑い、「ハハッ…そうか…。なんていう運命の巡り合わせだろうな…俺はまだ足掻いてもいいのか…まだあいつらといても…じゃぁ、頼めるか…?」と言った。
「任せて!」
夜は笑いながら答えた。
「道案内はリシュンにしてもらえ。」
「うん、わかった。すぐ行く!あ、僕の連れも何人かいるんだけど大勢で押しかけることになると思う。」
「ああ、わかった。それまでに起きて仲間に伝えとくよ。」
空の彼方が白く光った。
空から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「主様……。」
リーシアの声だ…。
「じゃぁ、僕行くね。」
「おう、またな。」
夜は空高く登り声の方へと飛んで行った。そして小さくなっていく夜に男は希望を見出し、男も座っているその場所から霞んで消えていった。
今回は夜の夢の中での出来事でした。




