奴隷を買う
街に入った夜達は歩きながら辺りを観察した。
街中はラージア国とは大違いだった。
ここは、レトラ国の中でも2番目に大きな街だったはずだ。なのに、全く活気がない。屋台も出ていなけれは、道を歩く人もいない。子供たちの笑い声や、駆けている音も聞こえなかった。ただ道の端に物乞いのように座っている人がちらほらいただけだった。衛生面でも清潔とは全く言えないハエが飛んでいるし、辺りから気持ち悪い悪臭がしている。路地からは痩せ細った子供や大人の手足が見えていた。
「これはひどい……」
夜は怪訝な顔をして、そう呟き道の端に座っている人や、路地にいた子供達に魔法鞄から取り出したパンや果物を少しずつ手渡した。
普通なら、見ないふりをして目的地に行くべきだったのだろう。だが、夜はリオ達と同い年くらいの子が苦しんでいるのをどうしても放っては置けなかった。食べ物を配っている途中あたりを見ると壁や、地面に黒いシミや嘔吐物や、排便物、それに何人もが死んでいた。死人には、ハエが集っていて、蛆が体を這っていた。悪臭の原因はこれらだったのだろう。餓死寸前の子もいた、その子にはリーシアに頼んでヒールをかけてもらい食べるのを手伝って貰ったりもした。食べ物を配られた人達はとても不思議そうに夜達を見た。幼い子供が食べ物を配っているのだ。皆、きっとこう思っただろう。
(なんて変な奴何だろう…。)と。
食べ物を配った夜達はこの街の商業ギルドへ行って、宿屋と奴隷を売っている店を6箇所ほど教えてもらい。
旅の途中で襲ってきた魔物の素材や、魔力をこめた宝石を2~3個程売った。この魔力が込められている宝石は道中でリーシアが夜の魔力を吸い出して作ってくれたものだ。夜の体は縮んでいるが、体の中の魔力はそのままで、魔力制御が出来ないため垂れ流しになっている。そのままでは魔物や動物が集まって来てしまうし、いつ体の方が壊れてしまうか分からない。だから、定期的に魔力を吸い出してもらっていた。
食べ物の方が値打ちはあるだろうと思っていた夜の考えとは違い、予想の100倍の金貨6000枚で買い取ってくれた。その時に聞いた話では、ここの土地の領主が大の宝石好きらしく至る所からかき集めているらしい。だから、ラージア国より買取価格がとても高いのだ。それと奴隷の値段はだいたい若い女の子が金貨10枚程度、獣人になると金貨4枚ほど、戦闘用になると金貨46枚ほどと用途でバラバラらしい。欠陥品と呼ばれる人達は金貨2枚程度だと聞いた。その差は一体何なのだろうか。そんな事を考えながら夜達は宿屋に向かった。
リーシアが宿屋に話をつけ3日間ほど部屋を借りる事になった。
3日で金貨1枚と結構値段が高かった。昼食を宿屋で済ませ、夜達は1つ目の奴隷専門の商館へ向かった。
商館の中へ入るとむせる程甘ったるいお香の匂いがしていた。その匂いを我慢し、店の奥で煙管をふかしいている細身の男に話しかけた。
「どれいをかいたいんですけど…」
(奴隷を買いたいんですけど…)
「いらっしゃい、冷やかしはお断りだ。売りに来たってんなら話は別ですけどねェ…。」そう言って男は夜の隣にいるリーシアを見た。
「ちがう、かいにきたんだ。おかねはちゃんとある。」
「そうですかい。どんな奴隷をお探しで?」
残念そうに言った後男は聞いてきた。
「りょうりやにわしごとができるものをさがしてる。とりあえずぜんぶをみることはできる?」
(料理や庭仕事が出来る者を探してる。とりあえず全部を見ることは出来る?)
「ああ、いいですぜぇ、ついてきてくだせェ…。」
そう言い男は奥の扉を開けた。通路を通って角を曲がり階段を下り地下へとやって来た。
「手前から品質が良い…、職業を持っていた奴らだな。あとは順に女、ガキ、獣、最後に欠陥品だ。」
「けっかんひん…?」
(欠陥品…?)
男は夜の呟きに対して「よーするに手が無かったり目が見えなかったり病気持ちのやつだ。」と教えてくれた。
「俺はここで待っててるから気になるヤツがありャァ言ってくだせぇ…。」そう言って男は、椅子に座り煙管を吹かせながら手を振った。
そう言われたので、夜達は目的に適した奴隷を探すため鑑定を使いながらスキル欄に【料理人】【庭師】がある者を探した。今、夜が鑑定を使えるのは、リオから借りてきた指輪のおかげだ。この指輪は使いたい時、自動で使う分の魔力を吸い取ってくれるため今の魔力制御の出来ない夜にはとてもありがたいものとなっている。また魔力が溜まってきたら後でリーシアに魔力を吸い取ってもらわないといけない。
もう何人に鑑定を使っただろうという頃やっと【料理人】を持っている奴隷を見つけた。見るとその奴隷は男で30歳くらいのおじさんだった。そして料理人として決定的なものがなかった。両腕が無かったのだ。扉を見るとここは欠陥品の集まっている場所だった。
腕がない人はざらといたので、夜は「そこのりょううでのないさんじゅっさいくらいのおじさん!」(そこの両腕の無い30歳くらいのおじさん!)と呼んだ。そのおじさんはこちらを見て「俺のことか…?」と気力無く返事をした。
「そうだよ。おじさん、またりょうりしたい?」
(そうだよ。おじさん、また料理したい?)
夜のその言葉を聞き両腕の無い男は黙ったまま枷をガチガチャと鳴らし檻の夜の前まで来て「…あぁ…あぁ…、したいよ…!!したいに決まっているだろう…!!でものこんな腕で何が出来ると言うんだ!」と苦しそうに言った。
その言葉を聞き夜は深く被った外套のフードから笑みをこぼした。
「このひとにしよう。」
(この人にしよう。)
夜はそう言って地下の出入口で煙管をふかしている男に「このどれいをください。」といった。
「こいつで良いんですかい?返品は受けつけてねぇですぜ?」
「このひとでおねがいします。」夜は間髪入れず答えた。
「金貨2枚と銀貨3枚だな。」
夜は男が言った額を渡し、両腕のない男を連れて上の階に戻った。
上の階に上がると奴隷と主従の契約を交わした。契約の際血を首の拘束具に着いている石に吸わせないといけなかった。そのまま商館を出て宿屋でもうひとつ部屋を取った。部屋の中に入り、早速やるべき事をした。帰っている途中で聞いた名前はジェイソンと言うらしい。
宿に戻る途中でリーシアに魔力をまた吸い出してもらったし、一般人程度しかないから魔力の暴走もなく魔法が使えるはずだ。
「ジェイソン、とりあえずこれのんで」
そう言い夜はジェイソンの口元に青い液体を1滴落とし、両腕にも1滴ずつ落とした。すぐ―掃除―と唱え男の奴隷服と体を綺麗にした。そしてすぐ骨が伸びそれにまとわりつくように肉が膨張しジェイソンの腕が生えた。ジェイソンは目を白黒させ混乱していた。患部を覆っていた包帯がジェイソンの腕から垂れている。夜はその包帯を回収し綺麗にした後魔法鞄にしまった。
「ジェイソン、うでをとりもどしたきぶんはどう?」頭を傾けながら微笑み聞くとジェイソンは今にも涙がこぼれそうなくらいの泣きっ面で手を大事そうに確認するように触り「あぁ……、えぇ…、最高です…。」と言ってその夜、リハビリにと料理を作ってくれた。その久しぶりに作った料理は不格好だったがとても美味しい味がした。




